第179話 ベルトの失敗 墓地での戦闘?

 「いてててて」と墓守。


 まだ立ち上がれず、倒れた状態でメイルから回復呪文を受けている。


 「大丈夫か?」


 「あぁ心配はいらねぇや。おっと、まだ腹の中で殴られた衝撃が蛇みたいに蠢いてやがるぜ」


 「……それはすまない。 手加減はしたんだが」


 「そりゃわかってるさ英雄様」


 「ん? 俺の正体を知っているのか?」


 「そいつは、まさかですよ」


 「?」


 「こんな辺鄙な墓地に来る奴っては宿敵を処刑所送りにした英雄さまって決まってましてね。記念に殴ってもらうのが趣味みたいなもんなんですわ」


 「それは……」と言い淀むベルト。 英雄と言われる連中は自分以外にもたくさんいる。 けれども、人格者と言われる人間は少ない。


 どいつもこいつも、精神に狂気を秘めているのが常だ。


「できれば止めておいた方が良い趣味だと思うぞ」


「ガッハハハ……心配せずとも、何かあっても安心ですよ。幸いにもここは墓地ですからね」 


きっと、それは洒落たジョークなのだろう。 そう思いベルトたちは墓地の中に入っていった。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 「で、どうだ? 一応、墓に書かれている名前を見て心当たりがあるのは……」


 「いやぁ、さすがに多すぎですね。 1つ1つ見ていかないと」と生と死の勇者は言う。


 そのまま、言葉通りに名前を見つめては次、見つめては次を繰り返し。


 しかし、ここは墓地。 それも国中の罪人が処刑され埋まられる場所だ。


 見渡す限り、墓……墓、墓、墓…… 墓の見分だけで数日は必要になりそうだ。


 「仕方ないか、メイル」


 「はい!」と返事をしてメイルはベルトの背中に抱きついた。


 「制御は任せてください」


  その言葉を聞いてベルトは解放する。

 

 「≪死の付加≫……冥王襲名バージョン」


 かつて、自ら意思で冥府に落ち、奪い去った冥王の心臓。


 魔王に呪詛を植え付けられ、本領を発揮する機会は限られていた力であったが……


 今は、その制約はなし。 何も縛る事のない冥王の力。


 加えて、背中に抱きついたメイルが聖女の力を利用して、細かな微調整を開始する。


 ただ、戦う事以外に使い道のないと思われていた力だったが、今は違う。


 ベルトの意識は冥界と繋がり、死者の情報を読み取れるようになっている。


 だが――――


 (ノイズ? 邪魔をしているわけではなく、同じ力が干渉しているのか)


 情報精度が落ちる。 それは隣にいる人物が同等の力を有しているからだ。


 隣人の名前は『生と死の勇者』だ。


 「これは! 私の力が強制的に強化されている……ってまずくないですか? ベルトさん?」


 彼の言う通り、ベルトの予想をこえてまずい事になっている。


 生と死の勇者の力が彼の意思を無視して暴走状態。


 そしてこの場所は不幸にも、墓地だった。 それも、怨念に満ち溢れた罪人たちが眠る場所。


 ボコッ ボコッと奇妙な音が聞こえてくる。


 その音の正体は、地面が膨らむ音。 墓地の下から何者かが、目覚め出る音だ。


 「これは予想外……というよりも失敗だったな」


 「べ、ベルトさん!」と流石に勇者候補も焦る。


 現れた存在はアンデッド。 異形の亡者どもが大量に出現していく。


「まぁ、このくらいなら、問題ないだろう」とベルト。それから――――


「ちょうど良いから、勇者候補としての力をみせてくれ」


 しかし、


「いやですよ。ベルトさんが原因なのだから、自身で何とかしてください」


「……むっ」と意表を突かれながらも、仕方がないとやる気を出したベルトだったが……


 「その必要はありません。義兄さんがでるまでもなく私が行きます」


 ベルトの背中に抱きつき、夢心地だったメイルは既にいない。


 珍しく、ベルトに促される前に背中から離れ臨戦状態のメイル。


 聖女の彼女に取って、アンデッドに対して複雑な拘りがあるのかもしれない。   

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