第178話 墓守とのバトル

 「――――なんて事があったんですよ」


 「そうか、お前も苦労したんだな」とベルト。


 なんでも、目が覚めたら墓地で立ち尽くしていたらしい。


 以上、説明終わり。


 「気のせいでしょうか? 何か辛辣なものを感じたのですが」


 「よくわからんが、幽霊特有の感覚か?」


 「お話の最中にすいませんが……」とメイル。


 彼女は、今の勇者候補に対して杖を向けている。


 「成仏させる前に名前を思い出させるか、新しい名前をつけましょう」


 「ちょ!」と流石に焦る勇者候補。


 どうやら、メイルは、聖女という立場から幽霊のような存在に嫌悪感――――と言うよりも使命感を持っているようだ。 


 今も「絶対に成仏させてやるんだ!」と並々ならない意気込みを感じる。



 「ベルトさん、なんとかしてくださいよ。この子、絶対に成仏させるウーマンになってますよ。ぶっちゃけ、出現してから5回は昇天系の魔法を仕掛けようとしてますよ!」


 「残念ですが、私の浄化魔法は、まだ108種類あります!」


 「メイル……せっかくだから、もう少し生かしておいてくれ」


 「え? もう死んでますよ?」


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 「なるほど、勇者候補として従ってくれるのか」


 「えぇ、その次代の勇者決定戦……ですか? 私も参加しますよ。ただ条件があります」


 「条件? なんだ」


 「この町にある私のお墓を探してください」


 「あぁ、そうか。 死者にとっては重要だからな、お墓は」


 「えぇ、私たちにとって家みたい物ですからね」


 「いいだろう。その程度の事はやってやるよ」


 「ありがとうござます。でも本当にいいんですか?」


 「ん?」


 勇者候補の発言の意味はすぐにわかった。


 この町は、墓が多すぎた。



 ―――墓地―――


 「よそ者は入るな」


 墓守アンダーテイカーが現れた。


 「えっと……?」


 「ここは処刑所が近い町だ……その意味がわかるな?」


 恫喝するような口調。 それは悪意ではなくて高い職業意識だという事は理解できが……


 「つまり、この墓地の多くは――――」


 「そうだ、有名な罪人の墓が多い。だから何者かわからぬ者をいれるわけにはいかない」


 墓守の言いたい事はわかる。 


 この世には死んでも恨まれる者がいる。 墓を破壊する者もいるだろう。

 

 「なら、身分を証明するばいれてくれるのか?」


 「いいや、違うね」


 「何?」


 「俺と殴り合って強いって認めた奴だけが入れるのさ」


  墓守はアウトローだった。


 「がっはははっ……こんな町のこんな墓地だ。娯楽ってのが極端になくてな。それに――――」


 「それに?」


 「俺様を殴り倒せる奴なら、どっちみち俺が止めても無駄だろうよ!」


 吠えるように言い放つ……と同時に殴りかかってきた。


 ベルトは一瞬で墓守を倒す――――ような真似をしなかった。


 墓守が望んでいるのは、娯楽としての殴り合い。


 格の違いを見せつけるとか、何が起きたのかわからない間に倒すとか……


 そういう事ではない。


 だから、ベルトがやるべき事は路地裏の喧嘩で使うようなテクニック。


 墓守のパンチを顔面で受け止める。 「っ!」と口が切れ、血の味がした。


「どうでぇ? 俺様のパンチは? 口の中に美味しい味が広がっているだろよ?」


「あぁ、美味だぜ!」とパンチを叩きこむ。


 狙いは一番防御力が高く、鍛えこまれているであろう腹筋。


 それでも――――


「ぐはぁ……」と墓守は腹部を押さえて倒れ込んだ。

 


 

 


 


 

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