第169話 ベルトの面接

 「どうして、俺の魔法が風属性ではなく土属性だとわかりましたか?」


 「どうして? いや、注意深く観察したらわかるだろう」


 ベルトは、まるで当たり前のように言う。


 風を操っているように見えて、その実は土を拘束で操り風を巻き起こしているのだから、風よりも早く土が動いていたらわかると彼は言うのだ。


「――――ッ! この足場の悪い空間でもわかると?」


 イサミは、自身の足元へ視線を落とす。 石の混じった地面に草が荒れている。


(どんな視力をしているんだ? この状態で土を見ていただと!?)


「一体、何者ですか? 名前を聞いても?」


「あぁ、別に隠そうとしたわけじゃない。いきなり、襲われたて名乗り遅れただけだからな」とベルトは笑い、


「俺の名前はベルトだ。聞いたことはあるか?」


「いいえ?」


「ふむ……それじゃ剣の勇者 カムイという名前は?」


「勇者の名前なんて、そこら辺の子供だって知ってる。馬鹿にしているのですか?」


「いや、そうじゃない。俺もカムイの仲間だった男だ。 もしかしたら、俺やカムイの名前は知られていないのかと思ってね」


「勇者の仲間? ベルト? あの冥王、魔王、勇者と次々と殺した暗殺者のベルト・グリムか!?」


「いや、そんな物騒な感じに伝わっているのか……」


「そんな伝説が俺に一体、何の用があって?」


「その魔法を使えるようになったのは最近だろ?」


「わかるのか?」


「突発的に魔法が使えるようになるのは精霊の恩賞…… この世界が次代の勇者候補にお前を選んだ。そう言われて信じるか?」


「何を? 俺が勇者に?」


「あぁ、今の俺は裁定者だ。お前のような勇者候補が本当に勇者に相応しい人物か? 査定することになった」


「査定……俺は、どうだ? 勇者に相応しいか!」


 目を見開いて、興奮気味に叫ぶイサミ。それに対してベルトは――――


「そこそこかな?」


「そ、そこそこ……だと?」


「あぁ、お前が最初に査定する勇者候補だからな。 戦闘能力は、後から何とでもなる。俺が見るべきは……性格かな?」


「せ、性格? 俺の―――それで判断するのか?」


「あぁそうだ。お前は、なんでこんな所で魔獣と戦っていた?」


 いきなり、ベルトの面接が始まった。


「……俺は、勇者に憧れていた」


「ふむ」とベルトは、いつの間にか取り出していたメモに書き込む。

        

「そのために鍛えてきたつもりだった。しかし――――魔王は倒され、ダンジョンの数も激減した」


「お前は英雄や勇者になる機会を失った。その苛立ちを魔物狩りに向かわせていたという事か」


「そうだな。言葉にすると、ただの欲求不満なのかもしれない、だが――――」とイサミは叫ぶ。


「俺は勇者に成りたい。勇者として生きたい。誰だってそうだ。そのチャンスが本当に俺に巡ってきたのなら――――俺は何だってする」


 危うい。


 ベルトは、そう感じた。


 好戦的な性格。 勇者への渇望。 


 しかし、それは――――強い憧れの裏返し。


 (なら、俺は、コイツに何をする? 何をしてやれる? ――――いや、俺ができる事は1つだけだ)


 ベルトは覚悟を決めて、殺意を発動させる。


 「なっ――――何を?」とイサミ。


 「話してみてわかった事がある。 どうやら、俺は人を性格で判断できないらしい」


 前言撤回。 そして、こう付け加えた。


「結局、俺は戦う事でしか相手を理解できないらしい」


 ごくりとイサミが喉を鳴らした。それから――――



「最初から俺は……戦うつもりでしたよ」


 再び戦う覚悟を決めた。


 

 

   

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