第168話 勇者候補イサミとベルトの戦い
「どうやったのですか?」とイサミ。
「ん? 何をだ?」と返すベルト。
「気配がありませんでした。いえ、気配だけ消しても人狼相手なら匂いで気づかれるはずです」
「気配を消す……それを突き詰めたら、次の段階があるんだよ」
それを言い終えると同時にベルトの気配が薄まり……朧気で……目の前にいるはずなのに消えて見えるような感覚にイサミは襲われる。
「俺は暗殺者だからね。気配を消す専門家なんだよ」
「……嘘ですよね?」
「ん?」
「ただの暗殺者が、そんなに強くないはずです」
「実力とか、そういうのを計れる動きとか見せたつもりはなんだが?」
「わかっちゃうんですよ、俺。 強い奴とか、そうじゃない奴」
「それは、便利だ。それで?」
「それで……とは?」
「測定したんだろ? 俺の強さを? どのくらい強いと思った」
「強すぎて比べる物が思いつきませんでした。雪崩とか、土砂災害とか……自然災害くらいですか?」
「それは面白い」とベルトは笑った。それから、
「正解だよ、俺はそのくらい強い……いや、もうちょっと上くらいかな」
「それは楽しみです」
「おいおい、なんで前傾姿勢で武器を構える? まるで今から――――」
「今から戦おうとしてるのです!」
そう言うよりも早くイサミが駆け出す。 一瞬で間合いを詰めてから必殺の刺突。
手ごたえは……ない。
(避けられた! このタイミングで!)
驚愕。
睨みつけるように見ていたはずのベルトの姿が消えていた。
気配は背後へ移動している。振り向きざまに武器を振るうも―――
背後から首を掴まれ、引き倒される。
「やれやれ、とんでもない跳ねっ返りだ」
上からのぞき込むベルト。だが、その顔面に向かって蹴りを放つイサミ。
悠々と避けるベルトだが、その動作でイサミは捕縛から逃げれた。
クルリと大地を回り、立ち上がるイサミは笑っていた。
「本当に凄い。俺、本気でした。本気で殺そうとしてたんですよ」
陽気に危うい事を口走るイサミの様子に眉を顰めるベルト。
「凄い、本当に凄い……だから、本気で殺すために段階を上げます」
「段階を上げる?」
「えぇ、最近、魔法に目覚めたみたいなんですよ」
イサミの周辺に風が走り抜けていく。
だが、ベルトは知っている。
魔法と言うのはある日、突然に目覚めたように身に付く物ではないという事を。
鍛錬と才能。 あるいは自身の魔力を底上げるするための道具。
さらには、外法と言われる物。 それら代償を払う事で魔法を使う事ができるようになる。
(突然に目覚めた力…… やはり、勇者候補に間違いないな)
イサミの周辺に風が集まっていく。 先ほどの人狼戦で見せた風魔法による斬撃。
あるいは風魔法のコントロールによって自身の移動速度上昇か?
だが、ベルトは、それらの根本から覆す発言をした。
「おもしろい魔法の使い方だな……まさか土属性魔法を、そんな風に使う奴なんて初めて見たぞ」
その発言にイサミは、まるで悪戯がバレた子供のような表情を見せた。
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