第152話 最も強い者が2人という矛盾
「そんな事は決まりきってるじゃないかい? ごく平凡な人間は、勇者にもなりたい。魔王にもなりたい。まして世界最強なんて最高にそそられる。 それから、普通の人間ってのは、生まれて一度くらいは人類が滅びないかな? とか、世界が崩壊しないかな? とか、想像して楽しむもんなだぜ?」
魔王の言葉は正しい。
人は自分ではないものに憧れる。
当然、勇者になりたがる。
当然、魔王になりたがる。
当然、世界最強に憧れる。
もしかしたら、世界の崩壊を――――世界の最後を見たいと思うかもしれない。
だが、しかし――――
世界を終わらそうと、人類を滅ぼそうと、本当に実行する者がいるだろうか?
「そんな奴はいない」とベルトは断言する。
強く、強く、魔王の言葉を否定する。
「人は、どんなに邪悪だろうが! 狂っていても! 世界を滅ぼそうと――――していいはずはない!」
「良いとか悪いの話じゃないさ。やるか、やらないかさ。お前だって世界に絶望した経験は1度や2度ではないだろ?」
「いいや、俺は絶対に――――」
「いいや、私が求めているのは言葉ではない。もう言葉は届かないし、通じない。 やるなら力だ。さぁ私を止めたければ、単純に暴力で屈服させたまえ!」
「――――あぁ、わかったよ。お前を止めるためなら、暴力の権化になってるさ!」
カレンの肉体と手に入れた魔王。 それは最強の暗殺者の肉体。
一方のベルトもまた最強の暗殺者。
最も強い者が2人という矛盾。
その矛盾が激突する。
・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
最強の暗殺者同士の戦い。
その戦いの速度領域は常人の知覚レベルを遥かに凌駕する。
一瞬で間合いをつめたベルトから繰り出される高速の貫手。
鉄の盾程度なら悠々と貫くソレを魔王は掴み、止める。
投げが来る! とベルトは判断。 しかし、投げ技からの脱出が遅れた。
次の瞬間、ベルトの体が1回転する。
その投げは単純だった。 シンプルに魔王が掴んだベルトの腕を捻ったのだ。
それだけで体が回転するのは、どういう理合か?
――――いや、一度では終わらない。空中で2回転、3回転……ついには大型蒸気船のスクリューのようにベルトの体は高速で回転を始めた。
そのまま、地面に叩きつけようとベルトの体を振りかざした。
だが、ベルトの体が消える。
影と移動する暗殺者のスキルを使い魔王の背後へ。
その後頭部へ蹴りを――――避けられた。
大きく膝を曲げ、腰を落として回避した魔王は、下から上へとアッパーカットのような打撃を放つ。
防御は――――できない。
なぜなら、両者共に通常の打撃が≪致命的な一撃≫
当たれば決着の一撃必殺。
ベルトは再びスキルを使い、魔王の影へ逃げ込む。
そして、浮上……だが、そこに魔王の姿はなかった。
相手の背後をとるためのスキルにも関わらず……
なぜ? とは思わない。 すぐさま相手も同じスキルを使用したのだと理解するからだ。
≪二重断首刀ギロチンエックス≫
無防備になったベルトの首筋にギロチンの如く手刀が振り落とされる。
だが――――
≪
ベルトも同じ技を放ち相殺。
戦いは振り出しに――――戻らなかった。
なぜ、なら同じ技の打ち合い。 叩き合う手刀。 そして、その威力。
一瞬、両者の動きが止まる技硬直。
そして、僅かに次の動作に差が生まれた。
≪
魔王の拳がベルトの胸を捉えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます