第134話 鮮血が飛び散った


 ソルが提案した作戦はこうだった。


 上空からの奇襲。 


 ノリスの槍による結界展開。


 魔王軍の動きを止めた所にメイルが周囲の魔物を一掃。 


 そして、ベルトの最強の一撃を持って竜王ゾンビへの攻撃。


 これらを皮切りに隠れている冒険者たちが遊撃部隊として戦場を駆け回る。


 作戦と言うには稚拙なものであったが、その効果は――――


 想像よりも大きい。


 ベルトの登場に気がついた参謀フェリックスは背後の竜王ゾンビの元に急ごうとする。


 だが――――



 「おっと、おたくは俺の相手をやってもらうぜ」


 「――――先ほどの槍兵か」


 「あぁ、先ほど槍は手放しちまったがな」


 そういうとノリスは一瞬で間合いを詰めた。


 「魔王軍最強の魔法使いに接近戦を挑めるチャンスは滅多にないからな。ここで、その首を取らせてもらうぜ」


 ノリスの短剣2本がフェリックスへ振り落とされる。


 しかし、金属音。


 「なに!」とノリスは驚愕の声を出す。


 ノリスの斬撃を防いだのは半透明の杖。 高魔力によって質量を得た魔法の杖だ。



 「魔法使いだからと言って接近戦も勤めれねば最強の魔法使いは名乗れぬよ」


 「へっ……上等だよ! 槍兵に長物が通じると思うなよ!」


 「無名風情がほざけ!」


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・



 「今まで竜種との戦いは数え切れないほど経験してきたが……コイツは特別デカイな」


 縛り上げていたメイルを解放したベルトは竜王ゾンビを見上げる。


 落下のショックが抜け切れていないのか、一瞬で大量の魔力を消費したためか、メイルはフラフラとしている。


 「結界魔法の魔力は残っているか?」


 「はい」とメイルは答えた。 どうやら、先ほどの「こうなったら全弾売り尽くしですよ!」と叫んだのは勢いで言ったらしく、魔力の残量は十分にあるらしい。


 「それはいざと言う時に自分の身を守るために使え」


 「え?」


 「ノリスの聖樹を使った結界。メイルの破邪魔法攻撃。そして俺の ≪致命的な一撃≫。波状攻撃で尋常ではないダメージを与えた事は間違いないが――――」


 ベルトは言葉を切った。目前で巨大な山が動いたからだ。


 巨大な山――――竜王ゾンビはベルトを睨みつける。


 対してベルトは、どこか楽しげですらあるが――――



 「……ベルト。我が魔王さまの怨敵が1人め」



 竜王ゾンビのキバから怨念の込められた言葉が発せられた。



 「お前、ゾンビのくせに喋るのか。 脳みそまで腐っているように見えるがな」



 それをどう思ったのか、巨大な巨大な前足を振り上げて、ベルトに目掛けて振り下ろす。


 それをベルトは余裕を持って避けた。避けたのだが……


 震動。


 地面に叩きつけられた攻撃によって地震が起きたのだ。


 一瞬、バランスを崩れるベルト。 動きが止まったのを狙って竜王ゾンビは横薙ぎの一撃と再び前足を振るう。


 それをベルトは飛翔。ジャンプで攻撃を避ける。


 だが空中では無防備。 竜王ゾンビの顎が開く。


 既に、口内には魔力が灯っている。


 火炎放射。


 ゾンビ化して失われたと思われた竜王の機能は健在だった。


 一瞬で全身が炎に包まれ――――




  ≪暗殺遂行≫



 ――――否。 炎の包まれる直前、移動スキルの使用によって避けると同時に竜王ゾンビの背後に移動した。


 竜王ゾンビの背後、その長い尻尾を攻撃しようとするも、剛風。


 鞭のように振るわれた尻尾。 その巨大さによって発せられた烈風はかまいたちのように切れ味を有していた。



 「――――痛っ……」とベルトの口から漏れる。



 体の数箇所にできた傷跡。鮮血が飛び散った。

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