第129話 さて始めようか……終わりの始まりだ


 「始めようか……終わりの始まりだ」



 はて? 自分は何者だったのだろうか?


 魔王は玉座に腰掛て自身に問いかける。


 無限にも等しい輪廻転生の連鎖。


 人の心に闇が強まれば顕現する形を持った必要悪。


 魔王と言うのはそういう存在――――否。そういう現象だったはずだ。


 輪廻転生……つまり、生まれ変わりだ。


 死して生き返る。あるいは生きて死ぬ。まるで、鶏が先か、卵が先かの理論の如く。


 いつから魔王が世界のシステムに組み込まれたのか……その記憶はない。


 しかし、無限の連鎖の果てに裂傷が生まれる。


 魔王が転生する先に存在する肉体。それは人間であり――――


 そこに宿るはずの魔王の精神は人間の精神の打ち負かされ、そして取り込まれた。



 いやだ……やりたい事はまだあるんだ。まだ、逝きたくない。まだ、生きたい。死にたくない。消えたくない。死にたく死にたく死にたく死死死死死?しししししし……ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ……



 果たして、それは少女の叫びだったのか? それとも魔王の断末魔だったのだろうか?


 生を熱望した少女によって、すでに魔王は駆逐された。


 魔王を取り込んだ少女は――――いや、彼女が言うには魔王を喰らった少女は、次に勇者を喰らった。


 なぜか? それは少女にもわからない。 


 ――――いや、もしかしたら復讐なのかもしれない。

 

 この世界への愉快な復讐劇。 勇者も魔王も……そして自分を取り入れた世界のシステムへの復讐。


  

 「さて……始めようか……終わりの始まりだ」


 魔王は呟く。


 しかし、その目前には幾千もの影が蠢いている。


 影は異形の姿を持つ魔物たち。魔王の呟きが全員に行き届いたかのように呼応の雄たけびを上げる。


その日、各国の城や教会、ギルドに激震が走る。


連絡が入ったのだ。魔王軍の進軍が再び行われた……と。



・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・



 「さて、そろそろ君のも働いてもらう時間だよ」


 長々とした演説を終え、幕の後ろに戻った魔王は待機していたソルに話しかけた。


 普段は飄々とした彼には珍しく、頭を下げている。 その頭からポツポツと大粒の汗が落ちている。



「本当に行うのですか?」


「そうだよ。そのために君がギルドの権限を全て掌握するのに手を貸したんじゃないか」



「ですが……」と言い淀むソルは意を決したように続ける。



「なぜです? なぜ、ここまで兵を焚き付けて置いて、ご自身は――――」


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