第128話 幕間③ かつて少年だった大人


 「何をしたんだ?」


 少年はメイルに尋ねる。


 「私たちは考え違いをしていたのです」


 「考え違い? なにを?」


 「この村に子供がいないと誤った方向に考えていました」


 「……? いや事実、子供の姿はいないだろ」


 「いいえ、逆だったのです。この村にいなかったのは……大人の方だったのです」



 メイルは指差した。


 その先には怪人が着ていた服だけが床に落ちている。


 いや、良く眼を凝らすと衣服が僅かに揺れ動き、這い出るように中から――――


 

 「赤ん坊……だと!?」


 メイルは軽々しく赤子を抱き上げ、あやしながらも話を続ける。



 「私たちが村人と認識していたのは子供たちだったのです」



 「子供……」とメイルの言葉を繰り返しながらも頭を働かせる。


 

 考えてみれば、村人たちは、記憶を失っても労働を行う者と行わない者の2種類いた。


 それは、単純に日常的に大人の手伝いをして働いていた子供とそうではない子供の差。


 それにある種、大人が行うには奇行とも言えれる者も子供だったと考えれば……



 「では……大人はどこに?」



 その質問にメイルは首を横に振った。



 「わかりません。でも、貴方ならどこにいてもわかるんじゃないですか?」


 「わかる? 俺が?」と困惑をする少年。



 「えぇ、そろそろ思い出してください」


 「思い出す? 何を?」


 「この村に大人はいませんでした。では、子供の姿をしている貴方は誰なのでしょうか?」


 「だれ? 俺は記憶が……ない」


 

 「そうですね。ゆっくりと思い出していきましょう」とメイルは優しく微笑んだ。


 

 「まず、この現象は魔法を使用した物ではありません。ならば、何を使用したのか? それは単純ですね。『呪詛』です」


 「呪詛? 呪詛とはなんだ?」


「呪詛と言うのは、魔法とは違う工程で行う超常現象。魔族が使う呪いのようなものです。私たちのように教会の所属している者たちは『呪詛』に対する研究が進めていて耐久のようのな物を身に着けています」


 だから、私は記憶の消失が薄いのでしょう。それに、こちらの修道女さんも影響が出ていたのです。そうメイルは続けた。


「耐久……あ、あぁ、道理で……いくら暴れても、修道女が様子を見に来ないはずだ」



 少年の呟きどおり、2人が戦っていたつもりの怪人は『呪詛』によって怪人に仕立て上げられていた赤子だった。


 怪人との戦いが、どこまで現実で、どこまでが幻想だったのか? 


 今となっては分からない。 しかし、赤子と戯れているだけなら修道女が様子を見に来る事はなかっただろう。



「しかし、どうして『呪詛』の効果が消えのだ?」


「それは簡単です。 この村全体を結界を覆い直して私が『浄化』によって『呪詛』を掻き消したのです」



 メイルは、記憶の消失の原因を『呪詛』が関わっていると考え、この数日間は村全体の結界作りに奮闘していたのだ。 



 少年は混沌とした頭を整理する。


 この村は『呪詛』による力で子供を大人に変え、大人は姿を消している。

 

 そして記憶の改ざん。

 

『呪詛』に耐久があるメイルには、万全の効果が発揮されなかった。


もしかしたら、子供でも、大人でもない年齢も『呪詛』の効果に関係しているのかもしれない。 


 

なら自分は?



子供を大人に変える空間で子供の姿であり続けている自分は何者だ?


……大人?


この村で、どうして俺だけ? 大人でいる?


この村の住民ではないからだ。 そして俺が冒険者である事は……おそらく改ざんされた記憶ではない。


大人で冒険者? 依頼があって、この村に来た冒険者?



あぁ、そうか……



俺の名前は――――



少年は拳を振り上げ地面を叩いた。



≪致命的な一撃≫



その一撃は、衝撃の反響を利用して周囲の状況を把握する。


姿を消した大人たちはどこにいるのか? 


『呪詛』が関わっているならば、当然ながら犯人は魔族。


そして、『呪詛』を村全体を覆っていたのなら、犯人の魔族は村の近くに隠れている。


それを見つけるための一撃。やがて――――



「……見つけた。大人たちも無事のようだ」



少年はいなくなっていた。 


幼い繊細さは消え、どこか気だるそうな風貌でありながも、爛々とした活力に満ちた瞳。


かつて、少年だった大人。 グリム・ベルトはメイルの方を振り向き――――


「心配をかけてすまなかった。 依頼を終わらすぞ」


そう言ってニヤリと笑った。

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