第116話 ルーク戦完結


 ルーク分体によってルーク本体から蹴り落されたベルト。


 クルリと空中で体勢を整えて着地する。



 「追撃が……来ない?」



 高見から見下ろすルークを見上げる。



 「使わないのですね。それとも使えないのですかね?」



 「なにを?」とはベルトは聞き返さない。

 

 もちろん、ベルトが保有するスキルの中でも最強と言っても良いスキル


 ≪死の付加≫


 死なない存在に死の概念を与えるスキルだ。


 だが、そのスキルは効果が強力過ぎるがために反動が大きい。


 魔王によってベルトの腕に刻まれた『呪詛』


 ≪死の付加≫を使用する事で『呪詛』が活性化。


 ベルトの戦闘能力を大幅に低下させ、一時期は彼に引退すら考えさせられた。


 だが――――


 「お前は勘違いしている」

 

 「ほう……何をだ?」


 「俺が≪死の付加≫を使わず温存しているのは、使わなくても十分にお前を打破できると思っている。……いや、思ってるどころか確信しているんだ」


 「……戯言を。 私を倒せる魔法の一手が本当にあると言うならば、すぐにでも見せてもらいましょうか」


 「いや、必要ない」

 

 「なにを!?」


 「勘違いするな。魔法の一手を使わないって意味じゃない。すでに攻撃は開始されている」



 ベルトの背後。 爆音が鳴り響いて、何かが迫ってくる。


 なんだ?と戦闘中であるにも関わらずルークの意識はそちらへ――――音の方角へ持っていかれる。


 その正体は――――


 「自動二輪車


……だと? なにを……」


 そのバイクは、いつの間にか姿を消していた不死騎手


が乗っていた物。


 ベルトたちは、姿を消した不死騎手を探していたのだ。


 不死騎手本人は見つけることは叶わなかったが、なぜか愛車であるはずの自動二輪車(バイク)だけは見つけることができた。


 いま、自動二輪車に乗っているのはノリスであり、彼は正確にルーク本体の心臓を狙ってジャンプした。


 迫りくる自動二輪車。 一瞬の出来事でルークは思い出した。


 「確か……あの自動二輪車の前方には……」


 そう、杭打機


が2つ装備されていた。


 「――――ッッッ!」と激しい動揺。 ルークは自身を殺しえる武器を直前にして――――


 「だが、それでも私は! 死なぬ!」


 ルークは頭部だけを本体の肩に残したまま、首なし騎士である分体を操作する。


 本体の心臓に向かって真っすぐに突っ込んでくる自動二輪車に向けて分体を衝突させたのだ。


 空中衝突によってジャンプしていた自動二輪は失速に加え、大きく進行方向を曲げられ、乗っていたノリスは空中に投げ飛ばされた。


 「勝った。今度こそ、本当に……あのベルトに、あのベルトに読み勝った」と勝利を確信したルーク。


 だが、彼は見た。 地面に落下していくノリスが見せた表情を……


 まるで長年を復讐を成し遂げた者が見せる晴れ晴れとした……憑き物が落ちたような笑顔。


 一体なぜ? 芽生えた疑問の答えはすぐにやってきた。


 ゾクリと背筋に寒気が走る。 僅かに、ごく僅かな時間、目を逸らしていただけのはずなのに……


 新たに迫りくる黒い影。その正体はベルト・グリム。


 彼の両腕には、事前に自動二輪車から取り外していた2本の杭打機


が装備されていた。


 「それが! それが! それが、本命だったでも言うのか! ベルトおぉぉぉぉ! べると、ぐりむうううううううううううぅぅぅ!?」


 もはや何をしても手遅れ。 無防備なルーク本体の2本の杭が突き立たされ――――


 「ご明察」とベルトは呟いた。





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