第104話 ノリスから見た2人


 「ちょっと待ってくれ」とノリス。


 彼の声に足を止めたベルトは「どうした?」と聞き返す。


 「いや、このままダンジョンへ向うのか? 細かい打ち合わせもないままでか?」


 その至極全うな疑問にベルトは――――


 「……」と無言で返した。


 この男は、SSSランク冒険者である。

 

 だが、しかし、その称号は勇者パーティとしての功労へ与えられたもの。

 

 本質は暗殺者であり、冒険者として基本ですら疎かにしがち……

 

 さらに言えば、勇者パーティの時は、指示を飛ばす軍師役がおり、さらに斥候として役割を徹していた事もあり……


 およそ、冒険者パーティの頭目、司令塔、リーダーとしての能力を持ち合わせていない。


 そのため本来ならば、ダンジョン攻略直前で行う打ち合わせミーティングも失念していた。


 「うむ……」とベルトは唸り、こういう時、シンラはどうしていたか? と記憶を手繰っていた。


 しかし、その様子を見たノリスは困惑。


 (……まさか、必要ないというのか? ダンジョン攻略の打ち合わせが! それも初めてパーティを組んだにも関わらず!)


 壮大な勘違いをしていた。

 

 当然だが、命がけの冒険に打ち合わせが不必要ななはずはない。


 「……これがSSランクとSSSランクの差か」と呟いた。


 その一方、困り果てていたベルトはメイルに意見を求める事にした。


 「……どう見る?」


 メイルは、少し考え込むと――――


 「そうですね。基本的には義兄さんが斥候として先行。戦闘になったら前衛。 ノリスさんには後衛職である私の護衛。場合によっては前衛と臨機応変に応じてもらうのいいのではないでしょうか?」


 教科書通りの答え。

 それから――――


「たぶん……ですけどノリスさんはアンデッド退治の専門家ですよね?」

 

これにはノリスも驚く。今まで自分の得意分を話していなかったからだ。


「どうしてわかった?」


「どうして?」とキョトンとした顔をしたかと思うと、クスクスと可愛らしく笑いながら……


「流石に私でもノリスさんの装備を見たらわかりますよ」


「装備? 見ただけわかるのか?」


「えぇ、鎧は軽装なのに全身は厚め皮の服。これって、殺傷力の低いモンスターに大量に囲まれた時のためですよね? 武器を持たずに数が多いとなればアンデッド系が最初に思いつきます」


 「確かにそうだが……それだけが理由じゃないだろ?」


 「鎧が軽装なのに下は緩衝着……という事は強烈な打撃で鎧が体内にまでめり込んで致命傷を防ぎため……腕力が特徴的な吸血鬼対策ですね? それに一番の理由は武器です」


 「なるほど、確かに槍の柄の部分は世界樹の枝を使っているからな。破邪の効果については聖女は専門家ということか……」


 「いえ、私が気になったのは背中の短剣の方です」


 「サブウェポンの方か?」と背中から短剣を取り出した。


 それは『短剣』と呼ぶには不釣合いな武器だった。その太い刃は鉈を連想させる。

 

 「ノリスさんの槍術は……なんていいますか……えっと……武術的ですが……」


 メイルは言葉を選ぶように考えながら――――


 「短剣の方は、やや武術的とは言い難いような形状をしています。単純に殺しにくい相手の動きを止めるための武器なのかな? なんて思ってみたのです」


 「そうだな、正解だよ……」と彼は小さな声で言った。


 ノリスはメイルに対して、どこか軽い感じに思っていた。


 なぜ、この少女が伝説的冒険者であるベルト・グリムとコンビなのか?


 新人育成? 


 義兄さんと呼んでいるという事は……親類だからか?


 聖女という特殊な職業だから?


 ――――否。 


 この少女の洞察力。


 それはパーティの頭目や司令塔、リーダーとしての才能だ。 それを育てるため……


 なるほど。

 そのためにベルトさんは、一歩引いて自分からは指示を出さないようにしていたのか!

  

 ノリスはベルトに向けていた尊敬(リスペクト)をメイルにも向けるようになっていた。


 だが、ベルトもメイルも――――


 そんな事は一切、考えていない!

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