第103話 ノリスの腕前


  冒険者ギルドの裏にある広場。


 何も知らない者が見れば、奇妙な遊具が置かれた公園のように見えるだろう。


 しかし、ここは公園ではない。むしろ、危険な場所として子供は立ち入り禁止だ。


 ここは修練所。


 元々は駆け出しの冒険者が訓練をするための場所として作られたが、現在では即興のパーティを組んだ者たちが互いのスキルを確認したりする場所として使われる事の方が多い。


 「君の得意分野は槍……いいんだよな? それとも本命は後ろの短剣かい?」


 「短剣は、万が一のためのサブウェポン。本命は槍だ」


 「そうかい」とベルトは立てかけてあった練習用の槍(先が布の詰め物になっている)をノリスに投げて渡す。


 「流派とか、師匠とかは?」


 「ほとんど自己流だが、父親から習った」


 そういって自身の槍は木に立てかけるとベルトから受け取った槍を構える。


 その姿にベルトから「ほう……」とため息のようであるが、賞賛が込められた呟きを漏らした。


 「父親から教わったのは1つだけ。槍に技は不要。ただ速く強く突けば良い」


 「なるほど、良い父親だな」とベルト。

 

 「いいや、酷い父親だったよ」とノリスは笑った。

 

 「だが、父親の教えを守り通した」


 その言葉にノリスの笑いが止まった。


 「その点だけは感謝してるよ。で、試験はいつから?」


 「もう始まってるよ」


 「アンタは素手でいいのかい?」

 

 ベルトは「いいさ」と短く答えた。


 「そうかい」とノリスは言い終えるよりも速く突いた。


 言葉通りの速度。 メイルは初動ですら認識できなかった。

 ベルトは――――


 「お見事だ」と胸に触れる槍を見ながら言った。

 しかし、ノリスは首を横に振る。


 「……いや、誉められた気がしない。本物なら致命傷どころが怪我すら負わせれたか、どうか……」


 確かにノリスの槍はベルトの胸に到達している。

 だが、吹き飛ばすつもりで放った突きは、ベルトの胸に触れると同時に捉まれて衝撃を押さえ込まれたのだ。

 もしも抜き身の槍だったら、ベルトの胸から血を一滴でも流させれただろうか?

 

 (これがSSランクとSSSランク冒険者の差……)


 驚愕するノリスに対して、ベルトは腕を差し出した。


 「これからよろしく頼む」と笑みも加わる。

 


 ・・・

 

 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 東のダンジョン。

 

 通称、竜王の死骸ダンジョン。


 かつて地上を征服しようと企む竜王に対して、当時の勇者(カムイから2代前の勇者になる)が戦い倒した跡地……と言うよりも、巨大な竜王の死骸がダンジョンに変化した場所だ。


 なんでも、心臓と脳を破壊され倒されたはずの竜王だったが、その体の回復力は死してなおも健在であり、腐食と回復を繰り返して存在し続けている。


 そして体内では竜王の怨念と魔力が残り、アンデッド系のモンスターを生み出しているそうだ。


 ベルトたちは、そんな竜王の死骸ダンジョンの前まで来た。


 竜王の死骸と言ってもダンジョンである。 それなりに冒険者の出入りがあり、周辺には冒険者たちを客にした簡易的な店が広がっている。

 

 「では、行こうか」とベルト。

 

 しかし――――


 「ちょっと待ってくれ」と止めたのノリスだった。

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