第99話 幕間② 決着 堕天使戦
ベルトの蹴り。
堕天使の頭部はかき消され、体は後方に倒れていった。
その光景にシンラは――――
「今度こそ……やったのか?」
「……」と無言で答えるベルト。
倒れた堕天使の体は、風に霧散されて……
「あぁ、どうやらこれで終わりのようだ」
「――――いや、まだ終わらぬよ!」
光の粒子しか残っていない堕天使の体が、近くの岩に集まっていく。
「ベルト! 気をつけろ! あれは、あの岩は……陸クジラの死骸だ!」
岩。そう見えていたのは崩れた陸クジラの肉体。
それに光の粒子が集まり――――
「あれは食事だ! あの堕天使、陸クジラを食っている!」
食事というよりも侵食。
一瞬で陸クジラの亡骸は消え去り、光の粒子は人の形へ変化する。
「まだ、勝負はこれからって奴だな! ……なぁ人間?」
その形状は、陸クジラの皮膚のように無骨な岩を連想させる。
背中の羽まで岩だ。
蘇った堕天使に対してベルトは――――
「いや、既に終わっているさ」
「なに?」と堕天使は眉を顰めた。
「俺たち冒険者は天使や悪魔とすら戦ってきた経験がある。お前らは自分の体の事を知らないだろうが……」
話ながらベルトが間合いをゆっくりと歩きながら詰める。
「貴様!」と堕天使が拳を振るうが軽く避けたベルトは、拳を添えるようにして堕天使の体に触れる。
「時間をかけて体を復元して襲ってくれば、いずれは俺を倒していたかもしれぬ。
……だが、お前らの体は幽体。精神に大きく左右される精神体だ。 他の生物を食らって、肉体を変格させ攻撃を続行させようとした時点でお前の敗北は決定している」
互いに密着した状態。再び堕天使が拳を振るう。
だが、それよりも速くベルトは――――
≪致命的な一撃≫
必殺の一撃を完了させた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「ただの陸クジラ討伐がとんでもない事になったな」
夜の帳がゆっくりと太陽を隠していく帰り道。
シンラはベルトに言った。
しかし、ベルトの返答は――――
「あぁ、そうだな」と、どこか素っ気無いものだった。
シンラは、それに何か感じるものがあったのだろう。
「ベルトは、どこから天使が絡んでいると気づいてた?」
「……いや、全く」とベルトの答えにシンラはため息とついた。
「天使が出てきた時、全く驚いていなかったのは、いつも通りだったけど……自慢の気配感知スキルは発動しなかったのか?」
「……」
「それと、正体不明の相手に毒を打ち込んだのだって不自然と言えば不自然だ」
「……いや、お前の依頼が辺境で最強の魔物退治だったからな」
これにはシンラも頭に血が昇る。「お前ッ!」と文句を言おうとしたが、それよりも早くベルトは――――
「この世に天使や悪魔がいる以上、天界には神様ってのが鎮座してるんだろうけど……少なくとも、勇者の体を手にした魔王よりは強くないだろ?」
「――――ッッッ!」と絶句したシンラは、深呼吸としてから
「それほどまでに今の魔王は強いと思うか?」
そう聞き返した。
「あぁ、強い」とベルトの言葉は反論を許さない断定口調だった。
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