第98話 幕間② 飛翔 そして―――
シン・シンラの一撃。
≪鬼神回教攻≫
方術士が放てる魔法でも最上位。
加えて通常ではありえないほど長時間の詠唱強化……
その威力は堕天したとは言え、神の尖兵にどれほどのダメージを与えられたのか?
周辺の地形すら、易々と変動させる威力ゆえに、大量の砂煙が堕天使の姿を隠して確認はできない。
「やった……のだろうか?」とシンラ。
自身の言葉に半信半疑である。
普段なら攻撃後に隙を作らぬ彼女だったが……事態が事態だ。
限界までに張り詰めた緊張の糸。それがプツリと途切れた直後。
「いや、まだだ!」とベルトの声が響いた。
だが、ベルトの声ですら――――音速よりも速い光速の一撃がシンラを貫いた。
「ぐっ……がっ!」と苦痛の声をシンラがあげた。
「シンラ! 無事か?」
「あぁ、急所は外れた。だが、肩をやられては……」
「――――ッッ!?」
彼女の魔法――――方術には数々の制約によって強化されている。
片手が使えなくなると使用ができない魔法も少なくない。
彼女は傷口に札を貼り、癒しの術を使う。
ベルトも雑嚢
から回復薬を取り出し、シンラに渡す。
――――しかし、敵は待ってくれない。
視界を遮っていた土煙が――――
「手元が狂ったか……こうなっては仕方もあるまい」
晴れていく土煙の中、人影が揺らめいた。
――――いや、それは人影などではない。
片腕と欠損し、背に生えた翼も千切れ落ちている。
「たった一撃で幽体の9割を奪っていくとは……俺より、人間の方がたちが悪いじゃないか」
堕天使は残った片手をベルトに向ける。
シンラを襲った攻撃と同じ。 ――――その正体は圧縮さえた光魔法。
要するにレーザービームだ。
今度は、それがベルトを襲う。
だが、堕天使の攻撃よりも速くベルトは動いていた。
避けるためではなく、攻撃のための踏み込み。
飛翔。
それも前方へ――――大きく飛び込んでいた。
虚を突かれた堕天使のレーザーがベルトから外れる。
「だが、貴様が俺の間合いに入るまで3発は放てるぞ!」
堕天使が浮かべた笑み。それは強烈な笑いだった。
勝利を確信し、なおも敗者は辱めようとする恥知らずだけが浮かべれる笑い……
そして、それは実行された。
「人間風情が……今、死ぬがいい!」
その片手が光り輝き、ベルトに向けて発射――――できなかった。
爆音と衝撃。
残った片腕も弾け飛び、文字通りの無手になった彼に、果たして何が起きたか理解できたのだろうか?
それは光魔法の暴発。
無論、偶然ではない。
宙には、ひらり~ひらり~と札が舞い落ちている。
札に仕込まれた術式は、魔力の暴走を促す物。
簡易的に魔法を暴発させる罠(トラップ)。
「~~~~ッッ!? 貴様の、貴様の方が本命か!」
天使はシンラに向けて敵意と殺意を込めた声を放つ。
一方のシンラは「いいや、本命は私ではないさ」と朗らかな表情を見せた。
そう――――本命であるベルトは、既に間合いを詰めていた。
空中姿勢を縦から横へ。きりもみ状態のように1回転2回転――――
そして、3回転目の瞬間、上から振り落とすような軌道で蹴りを放った。
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