第93話 幕間② 討伐予定の魔物


 ワイバーンは長い間、ドラゴンと同一の個体と考えられていた。


 では、ワイバーンとドラゴンの違いは何か?


 膨大な魔力と高度な知性……


 無論、それらを有しているのはワイバーンではなく、ドラゴンである。


 あるのだが……


 それはつまり、外面では違いが見出せない。


 精々、四本足か? 二本足か? その程度の差でしかない。


 しかし、それで十分。 一目見て、敵の強さを把握できなければ、SSSランク冒険者は名乗れない。

 


「これでは準備運動にならないじゃないか?」



 前衛役に徹しようしたベルトよりも早く、シンラの札から魔力によって具現化された矢がワイバーンを貫いた。


 しかし、ワイバーンは一匹ではない。


 3匹……いや、4匹? 次から次へと姿を現す。


 あるものは上空から急降下を…… あるものは森林を踏み潰しながら……


 ワイバーンは群れであった。 その数は10を超えた時点で数えるには困難をきわめた。


 しかし、その10匹を超えるワイバーンたちは、ことごとく魔の矢によって貫かれて地に落ちた。



 シンラの高速魔力放射。



 実を言えば、それらの攻撃は発動速度を重視していて、それほどの威力が込められた魔法攻撃ではなかった。


 だが、その一撃は超がつく精密射撃。


 ドラゴンほどではないにしても、鋼鉄以上の強度を誇るワイバーンの鱗。


 シンラが狙ったのは鱗と鱗の隙間――――否。


 そこには隙間すらなかった。 魔法に回転力を加え、円錐螺旋状ドリルのように密着した鱗をこじ開け、ワイバーンの体を貫いたのだ。



 亡骸になり動きを止めた今なら、数えられる。

 


 その数……



 実に23匹。



 「流石に辺境最強クラスの魔物がいる地域だ。一瞬だけ緊張で手が震えたぞ」


 「一瞬だけ、しかも、手が震えても精密射撃か……流石、元ソリストだな」

 


 ベルトの言葉に「ふっ……」とシンラは笑いながら――――



 「ソリストだったのは、お互いさまだろ?」



 ソリストとは、元々パーティなどに所属せずに1人で戦う冒険者を指す言葉だ。


 ベルトのように単独戦闘能力が高い暗殺者なら珍しくもない。


 だが、本来は後衛職であるはずの方術士がソリストと言うのは……



 「見えてきたぞ。あれが討伐予定がいる場所だ」



 ベルトが指した方向には洞窟のような場所があった。



 「へぇ~ ワイバーンの流れで討伐予定の魔物はドラゴン系と想像していたが、ずいぶんと小さい住処だな。大型魔物はもちろん、中型魔物でも出入りできないんじゃないか?」



 そんな事を言うシンラをよそにベルトはなにやら準備を始めた。


 手には黒い球体。



 「爆弾? ……煙球か。魔物を燻り出すつもりか?」

 


 「あぁ、大体あってる」と煙球を洞窟に投げ入れた。


 投げ入れると同時にベルトは地に伏せる。



 「えっ?」とベルトの行動を理解でなかったシンラであったが――――

 次の瞬間、洞窟が爆発した。



 ――――いや、そうとしか思えない衝撃。 暴風がシンラを襲った。


 一瞬、体が宙に浮かび、吹き飛ばされかけるも体制を整え、地面に着地。

 


 「何をしたベルト……いや、あれはなんだ!」


 「気にするな。ただのクシャミだ」



 「クシャミ? クシャミってなんだ?」と混乱するシンラ。


 それもそのはずだ。


 シンラが洞窟と思っていた場所は、魔物の鼻だったのだ。



 そして、鼻の中に煙球を投げ込まれた巨大な魔物が怒りをあらわにして姿を現した。

 

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