第88話 結界、届かぬ拳


 魔王四天王の1人  


 参謀 フェリックス。


 魔法的禁忌を恐れぬ魔界の魔道師。


 唐突に現れた旧敵の1人にベルトは――――


 「てめぇ、彼女に何をした。何をしやがった!」


 激高。


 普段、飄々としながらも、冷静さを欠かせないベルト。


 そんな彼が、怒り以外の感情が抜け落ちたかのような顔を見せる。


 「放せ、その子を放せよなぁ? その子は――――俺の嫁だ!」


 ベルトは怒りを込めて言葉を放った。


 それだけのはず、しかし―――


 「むっ……ローブが……」とフェリックスは低い声を漏らした。


 よく見れば、彼が身に纏っているローブに変化が起きていた。


 まるで鋭い刃物で切り裂かれたような形跡が1つ……2つ……


 いや、次々に増えていく。



 「……うむ、質量を有するほどの高濃度の殺意を放つか」



 それから「文字通りに殺意だけで人を殺せるな。人間にしておくの惜しい」と笑い始める。


 その笑い声が引き金となる。ベルトの中で何かが弾けた。



 「う――――るせぇ!」



 その動きは疾風。


 瞬きも許さぬ速度で間合いを詰めると同時に拳を振るう。


 だが――――


 振るわれた拳が宙で止まる。


 不可視の壁がビリビリと音を立てて拳の進入を阻む。


 「忘れたのか? この結界魔法は暗殺者のお前には破れないと言う事を……」


 結界の内側から憐憫が込められた視線。


 それがベルトの怒りを――――


 加速させた


  ≪魂喰いソウルイーター


 結界に手を触れた状態での零距離魔法。


 放たれた魔法の刃は結界を大きく揺さぶるも突き破る事は叶わない。


 行き場を失った衝撃はベルトへ向って跳ね返りフィードバック、彼の肉体を切り刻んでいく。


 だが、血まみれになりながらもベルトの攻撃は加速する。



 ≪致命的な一撃クリティカルストライク



 衝撃のみを相手に叩き込むスキル。


 だが、それすらも結界に阻まれ届かない。


 ――――否。

ベルトの一撃一撃に合わせて、フェリックスのローブが揺れている。


 拳圧。


 僅かではあるが、微かな風圧だけは届いている。



 「だったら――――これでどうだ!」



  ≪致命的な一撃クリティカルストライク


  ≪致命的な一撃クリティカルストライク


  ≪致命的な一撃クリティカルストライク



  全ての攻撃が≪致命的な一撃≫


  僅かにローブを揺るがすだけだった風は強風へ変わり――――



  ≪劇毒強化ポイズン・ブースト


 強風は暴風へ変わった。


 突き、蹴り、肘、膝、掌底、頭突き。


 パンチ、キック、エルボー、ニー、オープンハンドブロー、ヘッドバッド。


 正拳突き、前蹴り、猿臂、鉄槌、裏拳、手刀、鉤突き。


 ストレート、フック、アッパー、ロー、ミドル、ハイ。


 バックハンドブロー、ローリングエルボー、ローリングソバット。


 後ろ回し蹴り、縦拳、崩拳、孤拳、旋風脚、諸手突き、打ち下ろし、かち上げ、真空飛び膝蹴り……



 打撃は更なる加速へ――――


 踵落とし、下段後ろ回し蹴り、縦蹴り、裏廻し蹴り……


 永延と繰り出される打撃の1つ1つに≪致命的な一撃≫の効果が付加されている。


 「無駄だ。幾ら試しても……せいぜい、風が通るだけだぞ……」


 フェリックスの声に焦りが混じる。


 自慢の結界魔法に守られているとは言え、目前の僅か距離でベルトの拳に晒されている。


 その恐怖感は、老獪で熟練された魔道師から集中力、体力……なによりも魔力を激しく消費させられていく。


 そして、ついに――――


 異音。


 ガタガタと結界そのものが揺さぶられ、崩壊の音が聞こえてくる。


 だが、ベルトは止まらない。


 本日2回目の発動……


 ≪死の付加デス・エンチャント

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