第87話 ラインハルトの正体


 ≪魂喰い≫の撃ち合い。


 なぜ、強化されていたラインハルトのソレとベルトのソレは互角だったのか?


 その説明を無視するわけにはいくまい。


 さて――――


 基本的な事だが、魔法には五大元素魔法という考え方がある。


 魔法は5つの属性があり、人は生まれつき得意とする属性が決まっている。そういう考えであり、その5つとは――――


 『地』 『水』 『火』 『風』 『空』


 この5つと考える流派もあれば――――


 いやいやその考えは間違っている。『木』『火』『土』『金』『水』の5つである。


 そう主張する所や、『火』『風』『水』『土』の4つで十分であると言う場所もある。


 どれが正解か? どれが間違いか? 


 そう考える事自体が間違いであり、紐解いていけば根源となる部分は同じ。


 ただ単に名称の違い。指導者、創始者が他の流派と違いを作るために意図的に変えている場合がほとんどだ。


 それはさておき……



 ≪魂喰いソウルイーター≫は毒属性の魔法攻撃である。


 毒属性? 五大元素魔法に当てはまらないではないのか? 


 そう思う者もいるだろう。 


 五大元素魔法とはあくまで目安であり、先天的に特殊な属性を得て生まれる者。


 あるいは後天的な鍛錬によって属性を得る者もいる。


 例えば、火属性の者が水属性の魔法を発動する事も可能である。


 ただ、その場合、水属性として生まれた者が鍛錬によってて強化した水属性の魔法に劣るというのは、当たり前の話。


 ……要するに、そういう事だ。


 非常に珍しい事だが、ベルト・グリムは毒属性と有して生まれ、それを鍛錬してきた。


 ――――それが、生来の毒属性ではないラインハルトが強化して放った≪魂喰い≫と互角の威力を有する結果を生み出したのだ。



 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・



 閑話休題。




 ≪致命的な一撃クリティカルストライク



 その背後を奪い、その首筋に衝撃を放ったベルト。


 ラインハルトの体内に入り込んだ衝撃は、まず人体最大の弱点である心臓を強打する。



 ラインハルト――――心臓停止。


 続けて衝撃は2つに別れ、心臓の真横に移動を開始。呼吸器官である肺へ到達する。


 ラインハルト――――呼吸停止。


 そのまま衝撃は下半身へ一気に下り、体重を支える膝を破壊した。



 ラインハルト――――歩行不能。


 今度は、逆に2つの衝撃は上昇。再び合流して1つへ――――


 大きな塊に戻った衝撃は最後にラインハルトの脳へ叩き込まれた。


 ラインハルト――――意識不明。



 体、心肺機能、脳とダメージを受けたラインハルトは、そのまま前に倒れて――――


 ――――異変が起きる。



 素顔だったはずの顔。獅子の顔に亀裂が入り、何かが剥がれ落ちていく。

 そして露わになった顔は女性の物……それを見た瞬間、ベルトの中で何かが弾けた。


 「カレン!?」




 カレン・アイシュ。


 ベルトの弟子であり、恋人――――そして、妻だった女性。


 いや、なによりも彼女は死んだはず……



 なぜ? と疑問符が頭を支配して、思考が停止する。


 ただ、彼女が前のめりに、頭から地面に倒れていくのを見ていることしかできない。


 暫くの茫然自失。

 ベルトはフラフラと彼女に近寄り、抱き起こそうとする。

 しかし、それは叶わなかった。


 横からの衝撃。


 一瞬の浮遊感。それから体の内部から湧き出てくるような痛み。



 (何があった? 何をされた?)



 『気配察知』のスキルすら忘れていたベルトは不意打ちを食らう。


 混乱に次ぐ混乱。


 状況把握能力は酷く低下していた。


 しかし、ベルトは反射的に攻撃を仕掛けた相手を見る。


 その人物は、ローブを身に纏う酷く痩せ型の男。


 魔王四天王の1人  参謀 フェリックスだった。

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