第82話 ベルト式死者蘇生術


 

 扉の向こうには死臭。  


 空気に分散されていうのは、たんぱく質と鉄分。


 無人のダンジョン。 いるのはベルトと死体のみ。


 いや、この様子は魔石と利用した魔具によって外部にも配信されている……はず。


 ならば、外部の人間は知っているのだろうか?  この惨劇を?


 ふらふらとベルトは導かれるように扉を潜 る。


 密室に死体が1つ


 その死体こそ、友であり敵であり……  


 キング・レオン。その人であった。


 彼はうつ伏せに倒れ、その背中には剣が生えている。

 

 一体、 誰 が?  


 レオン相手に可能なのか? その考えが脳裏に過ぎった瞬間、ベルトは気づいた。


 気づくと同時に、その場にしゃがみ込む。


 その頭上には、気配を消した殺人犯からの一撃。


 拳が走り抜けた。  


  しゃがみ込むと同時にベルトは両手で地面とつく。


 そして、 逆立ちとなると縮めた体を伸ばすように両足で背後の襲撃者へ蹴りを放った。  


 空振り。


 闇に包まれた密室空間に金色の毛が輝いてみせた。


「うむ、 気配は消したつもりだったが……」


 そう呟きながら、ソイツは――――  


魔王軍四天王の1人   魔獣将軍ラインハルトが闇から姿を現した。


しかし、ベルトは無視。


 懐から小瓶を取り出し、レオンの死体に中身を振りかける。


 刺突された傷跡に、その液体が浸透したのを確かめて、その体を貫いている剣を抜き去った。


「おいおい、俺を無視して何を……蘇生術か。そう言えば、薬屋の亭主なんぞに身を落としていたそうだな」


無視されたラインハルトは、今も自身に背を向けて薬品を地面に並べているベルトに腕を振るう。 獅子の顔と同様、その腕は肉食獣に相応しく禍々しい爪を有していた。


 しかし、風切り音だけを残してラインハルトの腕は宙を切った。


  次の瞬間には、目前にベルトの顔が浮かぶ。


 ラインハルトは 驚き、反射的にベルトから離れようと体を仰け反る。  


 このタイミングを逃すベルトではない。


「―――― 疾いッ⁉」


 ベルトの左拳を顔面に受けるも、次の右拳は防御した。


 だが、ラインハルトが知覚できたのはそこまでだ。

 

  衝撃。

 

 左上段回し蹴りハイキック  


 ベルトの左足がラインハルトの側頭部を捉えた。

 死角からの蹴りに対処が遅れ、まともに受けたラインハルトは部屋の壁際まで吹き飛んでいった。


「…… むっ?」  


 その瞬間、ベルトは違和感を受ける。  


 打撃から伝わったラインハルトの重さに違和感があったのだ。


 しかし、その違和感を頭から振り払い、レオンの治療に専念する。


 レオンの心臓は停止している。 医学的には完全に死亡状態。


  手遅れといえる状況。 しかし、冥王ハーディスの力を取り込んだベルトにわかる。

 体は死んでも、まだ魂は天に向わず、留まり続けている。


 ならばと――――


  ≪ 死の付加 ≫…… 冥王襲名バージョン


 『呪詛』の影響で使用を止められていたスキルを発動させた。


「――――来い。戻って来いよ」  


肉体から離れ行くレオンの魂を素手で掴み、体へ押し戻していく。


それに伴い、ベルトの体を蝕む『呪詛』が活発化していく。彼の体に激痛が襲い掛かってくる。  だが、ベルトはやめない。 無理やり……そして、強引な死者蘇生術。


魂を死んだ肉体にねじ込むと、ベルトはダメ押しに拳を握り――――


「生き返れ  キング・レオン‼」


 その心臓に拳を打ち込んだ。


 ――― ドックン―――  


 それに答えるように、弱々しくあるが……心音が聞こえてきた。


 深く、そして大きなため息をつくベルト。


 そんな彼の前に――――


 「まさか死者まで生き返らすとは……今度は簡単に生き返らないように肉体に激しい損傷を負わせよう」


  吹き飛ばされたラインハルトが戻ってきた。


 それからこう付け加える。


「いえ、そんな必要はないですね。なぜなら、レオンよりも先に貴方が死ぬのだから!」

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