第70話 幕間①どの時代の師匠?

 「一体、いつの間に!」  


実妹(ノエル )の言葉にベルトは肩をすくめた。


 ベルト の 気配察知能力。なんびとたりともベルトから身を隠すことはできない。


「えっと…… これはこれ 偶然ね。ベルト」そう言ったのはマリアだ。


「そう偶然よ。偶然、貴方が私たちの前を歩いていたのよ。そしたら、 ほら…… 行く方向もつられて、 フラフラ と…… ね?」


「…… 偶然か」とベルトはため息をついた。


 彼は鈍感だが、それは恋愛感情を意図的に封じているからだ。  


  察しが悪いわけではない。 けれども、それを深く追求する事もない。


「そ、そう言えば、シルフィドさんはどちらへ行かれたのですか?」 誤魔化すようにメイル がいう。


  確かに、ベルトと一緒の席にいたはずのシルフィドの姿はない。


「あぁ シルフィド か。彼女は、ここの店主と話しているよ」


「店主さんと何を話しているのですか?」


 料理の話だろうか? それとも、休日はコチラの手伝いをする話でも……


  漠然とながらもメイルは、そう考えていた。しかしベルトの言葉は意外にも――――


「俺がいない時に代わりにシルフィドの指導を頼もうと思って紹介しに来たんだ」


「紹介ですか? あの…… こちらの店主さんと言うのは?」


「あぁ、昔の俺の仲間と言うか…… 俺の師匠になる人だな」


「む、昔の仲間と言いますと、もしかして勇者パーティの方なのですか?」


メイルの驚きを秘めた言葉にベルト は――――


「いや、勇者パーティの方じゃなくて――――」と言いかけて、一度言葉を止めた。


「いや…… うん。そうだ。そっちの方だ。勇者パーティの方だ」とメイルから目を逸らして答えた。


だれが、どう見ても完全に嘘である。


 「?」と3人は疑問符を浮かべるが、すぐにメイルとマリアは事情を察した。勇者パーティ以外でベルトの仲間で師匠と言うと――――


 暗殺者時代の仲間であり、暗殺術の師匠という事になる。 そんな人物が、こんな所で甘味( スイーツ)のお店を開いているという事は流布してはいけない事なのだろう。 しかし、ただ1人だけ――――


「え? どういう事なんですか? どうして2人だけ、そんな分かったような感じを醸し出しているのですか?」

 

ノエルだけは困惑していた。「シー」と人差し指を口に当てながらメイルは――――


「ダメ ですよ。お店では静かにしなきゃです。それに人にはそれぞれ秘密 があるのですから」


 さらにマリアが続けて――――


 「そうよ、詮索するような真似をするのは淑女的ではありませんよ。ね? ノエル?」


 もちろん、ベルトとシルフィドの 後を尾行していた時点で淑女的ではあり得 ないのだが、マリアはそこを棚上げにする事に決めたみたいだ。 取り残されたノエルだけ「 え? え? え?」と 困惑したままだった。


「あら、こちらの方々もベルトちゃんの友達かしら?」


 不意に声をかけられた。 その人物は、女性店員だった。


 先ほどの注文時にメイルたちを接客していた店員だ。 いや、そんな事よりも――――


 ベルトちゃん? 今、ベルトの事をちゃん付けした?


「うふふ、可愛い子達ね。ベルトちゃんも隅に置けないわね 。シルフィドちゃんだけじゃなくて、 こんな子たちと仲が 良いなんてね」


「そういうのではないですよ、師匠。彼女たちは妹と妹と雇い主です」


「…… い 妹」 と メイル。 妹なのは事実なのだが、妹扱いに対して衝撃を受けてしまう彼女だった。


「…… や、雇い主」とマリア。雇い主なのは事実なのだが、雇い主扱いに対して衝撃を受けてしまう彼女だった。 実際の妹であるノエルは、そんな2人の様子とベルトに対してため息をつくのだった。

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