第66話 幕間①そこには2人の修羅が立っていた


 

 「でも、これはマイナスからのスタートですね」


 ノエルの言葉にマリアはコクリと頷いた。


 わからないのはメイルだけのようだ。


 「えっと……何がマイナスなんですか?」


 「メイルちゃん、わかりませんか? シルフィドさんがスカートをはいている意味が?」


 なぜかドヤ顔のノエルだったが、メイルは皆目検討もつかない。


 「いいこと? 普段のシルフィドの服装を思い出してみなさい」と横からマリアが助け舟をだしてきた。


 「白い鎧……ですよね?」


 「そう! 普段のシルフィドさんは男装をしているのです!」


 ノエルの勢いに推されて「ふ、ふぇ!」とメイルは変な声を出した。


 「普段とは違う服装。当然ながら兄さんも気づいているはずなのです。しかし……まさかのスルー!」


 道端で片膝をつき、本気で悔しがっているノエル。


 彼女の肩に手を置き、マリアが追随する。

 

 「あのシルフィドが、心の鎧を脱ぎ去って女性らしい服装をする……あの子だって不安があるはずよ。そこで『似合ってるよ』の一言があってもいいはず……いえ、なくてはならない!」

 


 まるで、舞台役者のように大げさに……それでいて本気で熱い魂が込められた言葉だった。



 「え? でも、あの服を選んだのはマリアさんのはずですよね?」とメイルは小首を傾げる。



 「そうよ。あれは普段と違うギャップ。あえて、弱さを見せて相手を誘い込み、取り囲んで落城させるコーディネート!」

 


 「な、なんだか、軍師さんみたいですね」とメイルは、盛り上がっている2人とは対照的に、よくわからないままだった。



・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・



 「いけない! うっかり兄さんの朴念仁ぶりに盛り上がってしまって2人を見失ってしまいました!」



 3人の視線の先からベルトとシルフィドは消えていた。


 「これも、兄さんの振る舞いが悪いからです!」


 「そうですわ。 あの男が女性の扱いと言うものがわからないからですわ」



 「さ、流石に、そこまで言うとベルトさんに悪いのでは……」とメイルは冷や汗を流す。

 それから――――



 「それに、この方向の通りを進んでいたのなら……。うん、2人の行き先はわかりますよ」



 「え?」と驚きの声をあげる2人。


 「ついてきてください」とメイルは駆け出した。


 メイルが向った先は――――



 「いえ、メイルちゃん。いくら兄さんと言ってもここではないと思いますよ」


 「普段の貴方がベルトさんのことをどう思っているのか、よくわかる場所ね」



 「え? 私、責められているのですか?」



 メイルが2人を連れてきた場所は道具屋だった。


 ベルト行きつけの道具屋。 メイルも良く連れられたきた場所だ。



「メイルちゃん、流石にデートで道具屋に連れて行くほど、うちの兄は……」


「でも、ベルトさん達は中に入っているみたいですよ?」



 メイルの言葉にマリアとノエルは店内を凝視した。


 ――――いた。 本当にベルトたちがいた。


 その瞬間、2人の脳裏にベルトがシルフィドを誘った言葉が思い起こされた。



 『マリアの命令でこの村に来てから、まだ間もないからな。町の案内もしないといけないなぁ』



 「まさか……あの男……」


 「に、兄さんは、デ、デートの誘い文句ではなく……本気で!?」



 それから「ひぃ!」とメイルが小さな悲鳴を漏らした。


 ノエルとマリア。その表情は――――



 そこには2人の修羅が立っていた。



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