第53話 戦闘の裏側で戦闘


 ベルトが勝ち名乗りのあげると同時に会場中から激しい声援が飛び込んでくる。


 しかし、この光景を見ずに飛び出していった者がいた。


 それは、メイルだ。


 建物の規模に対して、やや狭すぎる通路を走っていた。


 後衛職と言っても冒険者である彼女の息は乱れているが、それでも速度は落とさない。


 彼女は数十万人もいる観客の中から、ある1人を見つけたのだ。


 何十万人の観客席にいる1人を見つけられたのは奇跡か? それとも――――




 そんな事を考えていると目的の人物が見えてきた。




 見間違うはずのない綺麗な赤髪……


 メイルは思わず叫んだ。




 「姉さん……カレン姉さんですよね」




 その人物は足を止めて振り返った。


 メイルは思わず息を飲んだ。


 その人物は仮面をつけていたからだ。




 「……どなたかと勘違いをされていませんか?」




 仮面の人物は、どこか煩わしそう言い放った。


 しかし、その声は紛れもなくメイルが知る姉の物だった。




 「いいえ、勘違いではありません。貴方はカレン姉さんです」




 メイルの強い口調。それが予想外だったらしく、仮面の人物から動揺が伝わってくる。




 「違うというのならば、その仮面を外して顔を、顔をお見せください」




 メイルの泣き出しそうな訴え、だが、対象の人物は無慈悲に首を振る。




 「この仮面は先の戦争で負った傷を隠すもの……もしも、剥ぐなら好きにしろ」




 いきなり殺意を浴びせられ、驚くメイル。


 仮面の人物は、駆け出し間合いを詰めていく。




 「くっ……止めて下さい。私は別に貴方と……」




 だが、相手は聞く耳を持たないと剣を抜く。


 慌てたメイルは杖を振るった。




 ≪真実の弾丸トゥールショット




 聖属性の魔法を発動させる。


 闇属性、魔属性、不死属性に対しては膨大なダメージを与える魔法。


 相手が人間なら強い衝撃を受ける事になる。――――だが、殺傷性はない。


 しかし、相手は高速で飛翔してくるはずの魔法を剣で切り払った。




 「そんな!」とメイルは叫ぶ。


 仮面の内部で獰猛な笑みが浮かべられているのがわかった。


 剣が自分に打ち込まれる。そう判断したメイルは――――




 ≪破邪クラッキングイーブル




 強烈な光によって目潰し効果がある魔法を使う。


 ただの悪あがき……その程度の効果でしかなかったはずだった。


 しかし、なぜか効果は抜群。 


 仮面の人物は、後ろに下がったと思うとそのまま駆け出していく。


 逃げたのだ。




 (一体、どうして? カレン姉さん)




 メイルにはわかっていた。あれは紛れもなく死んだはずの姉だという事が。


 でも、それなら、どうして自分を襲ったのか?




 (いえ……そんな事よりも……)




 メイルは、この出来事はベルトに打ち明けるかどうか、悩む事になった。

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