第34話 新しい居候 シルフィド・パラナイト


 「解せないなぁ」とベルトはぼやいた。


 ギルトと敵対関係であるはずのマリアがギルドの依頼を受けるように指示を出した。


 もはや、指示というよりも業務命令に近い。


 しかし、問題は他にある。


 前回の西のダンジョンよりも第五迷宮は遠い。


 ……という事は店を休む期間も長くなってしまう。


 当然ながら、休日に帰省する妹のノエルに任せるわけにはいかない。


 「どうしたものか?」と困っているとマリアは――――




 「あら?簡単な事じゃない。元々、貴方に預けて鍛える予定だった子を店番にすればいいでしょ?」




 ……随分と簡単に言ってくれる。


 確かに、マリアの秘蔵っ子に戦闘訓練を指導する約束だった。


 しかも、薬局の二階で住み込みでだ。


 その子が店番までしてくるのならば、いろいろとありがたいのだが……




 「初めまして」




 その子は白馬でやってきた。


 黒いインナーに純白の鎧。さらに真紅のマント。


 マリアよりも色素が薄めの金髪。それを後ろで1つにまとめている。


 まるで物語で語られるように白馬の王子様の具現化。……だが、女だ。




 「シルフィド・パラナイトです」




 馬から飛び降りた彼女は深々と頭を下げる。


 つられて「ベルト・グリムです」とベルトも頭を深く下げた。




 「あら、もう来られたのですか?」




 どうやら、メイルが様子を見に来たみたいだ。




 「あれ? 同居人さんは女性だったはず……いえ、女性なのですか?」




 少し驚いたような声だった。


 シルフィドは、それを好意的な感想と受け取ったようだ。




 「初めまして。小さなお嬢さんマドモアゼル




 メイルの前でしゃがみ込んだのかと思っていると、片膝をつき、メイルの手を握り締め、甲に口付けをした。


 メイルは無表情と無言で、手を引っ込めると、そのまま後ろに下がり、ベルトの背中に隠れた。




 「おやおや、少し照れ屋さんなのかな?」とシルフィドは笑った。


 一方のメイルは小さな声で「私、この方と親しくできる気がしません」とベルトに耳打ちした。




 そうか? 中々愉快な人物だと思うのだが?


 そんな感想をベルトが抱いていると……




 「ベルトさん。さっそくですが、指導していただくにあたり、胸をお借りてもよろしいでしょうか?」


 「胸を?」


 「一手ご指南をお願いします……と言うやつですよ」




 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・




 場所は店の裏庭。




 「これでいいか?」




 ベルトは木刀をシルフィドに手渡した。


 シルフィドは振って、感覚を確かめると――――




 「意外といい品ですね」


 「まぁ、オーナー直属の部下を鍛えろという業務命令なんでね。それなりの用意はしているさ」


 「なるほど……しかし、ベルトさんは……」


 「あぁ、俺の事は気にするな。素手でも全力できな」




 「……へぇ」とシルフィドは瞳を怪しく輝かせた。


 ベルトの方が遥かに格上の存在。


 それでも、一撃入れ、驚かせてやろうと考えているのがわかる。




 シルフィドの構えは東洋の剣術に似ている。


 体は半身。腰を落とし、剣を鞘に納めたような状態。


 剣を抜く動作と共に最速で横薙ぎの一撃を繰り出そうとしているのだ。




 じり…… じり……




      じり…… じり……




 ゆっくりとシルフィドが間合いを詰めていく。


 対して、ベルトは言うと……




 歩いている。


 まるで早朝の散歩のように――――


 薄っすらと笑みさえ浮かべて間合いに入り込んでいく。




 当然ながら、間合いに入った瞬間にシルフィドは剣を抜いた。


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