14 セコンダリア~漆黒の杖VS白銀の竜
「まずは私が出る。合図したら来てくれ」
「えっ、あぁ、うん。分かった」
一真にそれだけ言うと、ディマオは魔法障壁の守りから出る。
彼は今、グランサビオと一体になっていた。
グランサビオの目はディマオの目。
グランサビオの腕はディマオの腕。
頭も胴も足もすべて、ディマオの身体だ。
融合し生身の体を動かすようにグランサビオを動かす。
それがグランサビオの操縦だ。
ディマオは今、自分の腕で塩ドラゴンを殴りたくて堪らない。
だが、それでどうにかなるという物ではないと、ディマオは諦めていた。
そもそもたどり着く前に塩ドラゴンに殴られて吹き飛ばされるだろう。
塩ドラゴンの首が、三つともすべてグランサビオに向けられた。
「はは、本当なら私が壊してやりたいとも。
だが残念ながら、私が習得した魔法に、お前を壊せそうな物はない」
一真には聞こえないようディマオは小声で呟く。
ディマオは本来、戦う男ではない。魔法を研究する研究者だ。
以前から習得してる少数の破壊魔法は嗜みに習得しているに過ぎない。戦
儀に参加するに当たって習得したものもごくわずか。
すべて同じ対人・対小型魔物用のものだ。
だがディマオはグランサビオに乗る限りは神機と戦える。
それはグランサビオによって神機にも通用する威力になっているだけなのだ。
グランサビオが記録している攻撃用の魔法も同じである。
自身と同じ程度のサイズ・カテゴリの敵に対してのみ有効なのだ。
だから、ディマオは任せることにして、自分はサポートに回ることにした。
無論、不服ではある。
塩を除くために人生の大半を研究に費やしてきたディマオにとって許せないのだ。
塩ドラゴンという、大規模除塩したら出てくる罠みたいな奴は。
だから全力で邪魔をしてやることに決めた。
塩ドラゴンの三つの顎門が開かれ、光り出す。
「ふふ、【ヘックスウィートの喰らう闇】」
ディマオの呪文と共にグランサビオの手から黒いもやが立ち上った。
黒いもやはグランサビオの前にとどまる。
塩ドラゴンがブレスを吐いた。
ブレスは黒いもやにお構いなしにグランサビオを襲おうと迸り、もやに突き刺さる。
ブレスは黒いもやを突き抜けなかった。
「来ることが分かっている攻撃ほど、返しやすい物はないな」
黒いもやが動き出す。
ブレスの軌跡をさかのぼるように塩ドラゴンの三つの頭に向けて別れて飛んだ。
塩ドラゴンは襲いかかる黒いもやの塊を頭を動かして避けようとする。
黒いもやは軌道を変え塩ドラゴンの頭を追いかけた。
塩ドラゴンは三つとも避けきれずに顔の横あたりにそれぞれ被弾する。
「魔力を含む攻撃に反応し、反撃を行う魔法だ。威力は低いが、十数秒ほど魔法行使の邪魔をする。近づくのには十分だ。許容量以上の大威力には対応できないし、何時どこから来るか分からない攻撃には私自身が対応出来ないがね!」
ディマオはしゃべりながら走った。
グランサビオに向けられた塩ドラゴンの顎が光る。
ブレスは放たれた直後にもやによって喰われ、塩の粒が落ちていった。
何度も何度も塩ドラゴンの口は光るが、ブレスは空を裂かない。
「おっと、喰らう闇が推定より持たないな」
ディマオには塩ドラゴンの口元を覆うもやが減っているのが見えた。
少しずつ減っていくのは情報通りだ。
だが強い魔力を喰うともやが急激に減るのかとディマオは推測する。
グランサビオが教えてくれる範囲には入っていなかった。
「だが、ここだ。ここまで近づけば十分だ」
ディマオは立ち止まる。
塩ドラゴンが数歩歩けば、腕の一振りでグランサビオがズタズタになる距離だ。
大きく息を吸って、吐いて、ディマオは宣言する。
「真名解放」
グランサビオとは、真の名ではない。
ディマオがセコンダリアの神機に勝手に付けた名だ。
神機の腕に二つずつ付いた計4個のローラーが勢いよく回り出す。
「ブラックロッドⅡ 143!!」
ディマオは高らかに、グランサビオの真の名を叫んだ。
ローラーそれぞれが光り出し、黒いもやごしに輝いた。
「このブラックロッドⅡは、どうやら自身と同じような敵と戦っていたようだ。故に、攻撃力は高いが貴様のような大きな敵を滅ぼせるほどは高くない。運動能力は奏者に依存する。だからこそ、搦め手が得意なようでな」
塩ドラゴンの顎が光る。
塩の粒が落ち、顎を覆う黒いもやが消えた。
塩ドラゴンは三つの頭をブラックロッドⅡに向け続け、口を大きく歪める。
まるで邪魔する枷はすべて無くなったと言いたいかのように。
再び塩ドラゴンの三つの顎門が光り出す。
「腕で直接殴ってくるかと思ったが、それか。だが、無駄だ」
ディマオはブレスを放とうとする塩ドラゴンに対して何もせず見上げ、言った。
塩ドラゴンから放たれた光の奔流はブラックロッドⅡをのみ込む。
三つの頭から三つのブレスはすべてブラックロッドⅡ一体に向け放たれたのだ。
驟雨のごとく降り注ぐ光は、当たったところから塩の範囲を広げていく。
邪魔をするブラックロッドⅡへの攻撃がついでのように、ブレスは長く続いた。
三つのブレスが収まったとき、ブラックロッドⅡは何事もなかったかのように立っていた。
少しの損傷もない。
「ふふ、無詠唱での障壁魔法など、今の私には造作も無い。これが真の力だよ。だが直接殴られては耐えられんだろう。だから、拘束させて貰う。
【ヴェストムンボゥの共縛る闇鎖】」
ディマオが呪文を唱えるとブラックロッドⅡの手首に手枷が現れた。
黒く、光を一切反射しない手枷は繋がれた鎖に引っ張られ空に固定される。
腕だけではない。足にも足枷が出現し、その場から動かないように縛られる。
黒い闇のような鎖は空中に空いた空間の裂け目のようなものの先から出ていた。
そしてブラックロッドⅡと同じように塩ドラゴンは手足を縛られ、拘束されている。
ブラックロッドⅡを縛る枷と同時に現れた枷によって縛られたのだ。
「自身の行動を制限することを代償に、目前の対象を同時に縛る。代償があるからか、実に強力な鎖だろう?」
塩ドラゴンは腕を引っ張って拘束を脱しようと藻掻く。
だが黒い鎖も枷もびくともしない。
三つの首それぞれがブレスを吐いて鎖を壊そうとするも、効果は無い。
表面が塩に覆われるだけで、壊れたり溶けたりはしていないのだ。
「もうカズマを呼んでも良いと思うが、その前に君には贈り物を差し上げよう。なに、つまらない物だが、受け取ってくれ。《ながれいずるきよめのみず》」
塩ドラゴンの上に、水の玉が現れた。
小さい水の球はみるみる大きくなっていく。
水球に気付いたのか塩ドラゴンは頭上に向けたブレスを放った。
成長が止まる。
ブレスが消えると水球は再び拡大を始めた。
「ははは、無駄だ。塩をのみ込み洗い流す魔法の水だ」
塩ドラゴンは三つの首の内二つを水の球に向け、ブレスを立て続けに放つ。
残った一本を魔法を止めるべくなのかブレスブラックロッドⅡに向け、を放った。
現れた障壁によってブレスは霧散する。
「《ちらすかべ》。ふふ、同時行使もこの通り。さて、少しペースを上げよう」
ディマオは水の球に向けた魔力を多くした。
直後、水の球がレスを受けても負けない速度で成長し出す。
塩ドラゴンに匹敵するほど巨大な水球ができあがった。
「はははははは! 遠慮するな! 食らえ! 塩がよく溶ける水だぞ!」
水の球が、落ちる。
塩ドラゴンに滝のように大量の水が懸かり、流れていった。
除塩用に作った特別な水が、塩ドラゴンに浸みていく。
塩ドラゴンの巨大な体躯は水に濡れ、透明感が上がった。
すべて溶けないにしろ多少はもろくなってれば嬉しい。
その思いを口には出さず、ディマオは暗い悦びに口元を歪めた。
「出番だカズマ!」
ディマオが大きく叫ぶ。
拘束し、弱らせた。
塩ドラゴンの敵意は完全にブラックロッドⅡに向いている。
あとは、友人に砕いて貰うだけだ。
異境武闘伝ファンタジーガン 藤村文幹 @toh_ka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異境武闘伝ファンタジーガンの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます