08 VSデカドス:ゲティンドーラ②


「ぐぅうううううう!!」


 右肩を押さえ、呻く一真は前をにらみ付ける。

 砲弾が飛んできた方角に、奴はいるはずだ。

 

 アテルスペスの右腕が二の腕の途中から無くなっているのがモニタ越しに見える。

 一真はどうなったかは激しい痛みで気付いていた。

 だから、見ない。


 代わりに一真は考えている。

 痛みで思考を千々に乱されそうになりながら、考える。


 一真は数秒前を思い返す。

 魔術障壁に穴が開くより先に爆発が起こった。

 次に障壁が穿たれながら砕けていったのを覚えている。

 怖気に従って横に跳ばねば、鉄杭がアテルスペスの胸を貫いただろう。


 即ち、超高速で跳ぶ鉄杭の周りに爆薬があり、近接信管で爆発。

 後に鉄杭が障壁を貫いた、ということだ。


 受ければ鉄杭、避ければ爆発、そういう、砲弾だった。


 確信を持って、一真はそう結論付ける。

 厄介な、攻撃だ。


「クソがッ!!」


 一真は珍しく悪態を吐く。

 努めて、そうしないようにしている一真も、我慢できなかったのだ。


「やってやる、ぶん殴る、ぶちのめす!!」


 右腕の痛みが消える。

 アテルスペスとの右腕部痛覚遮断による無痛状態だ。

 アテルスペスの右腕はそのままである。


 一真は深く息を吐いた。


 思考はクリアだ。

 度を超えた痛みが脳を冴え渡らせたのだろうか。

 わずかな時間で攻撃の正体を推測出来た。

 だが爆発と物理的な衝撃、同時に対処せねばならない。


 一真は1つだけ思い着いた。

 そして、同時に策も。


 もう一度、深く息を吸い、吐く。


「よし。アテルスペス、頼む」


 やはりタイミングはアテルスペス頼りだ。

 超遠距離からの砲撃など人である一真に察知出来ようはずもない。


「一緒に、殴りに行こう」


 気休めだと、一真は思う。

 だが同時に、アテルスペスとより深く同調した気になった。

 深く呼吸をする度に、腹の奥で空気を取り込む度に、そんな思いが強くなる。


 魔術を使う魔力には余裕があった。


 策を成功させる布石に、砲撃をしのぐ必要がある。

 策そのものにも魔力は使う。

 かといって節約して障壁を抜かれたら負ける。


 全力で、いかねばならない。


 もう一度だけ深呼吸しようとして、背筋に冷たいものが走った。

 左腕を挙げる。


「三護障壁!!」


 一真は三種の魔術障壁を合わせた障壁を、左前から右後ろにかけ斜めに貼った。

 直後彼方で光と続けて眼前で砲弾が爆発し中の鉄杭が壁にそって後方に抜ける。


「ふ、ふぅ、成功だ」


 一真は安堵の息を吐き、前に走り出した。


 まず爆発を《ちらすかべ》で弱める。

 続いて《はじくかべ》で鉄杭の勢いを減じた。

 そして鉄杭は斜めの《はばむかべ》を貫けず、逸らされたのだ。


 デカドスの神機があと何発、同じ攻撃が出来るかは分からない。

 残りの弾数は多くないとは、一真は思っている。

 耐え抜けば、走って接近する目は出るだろう。

 だが、今の防御は魔術によるものだ。

 一撃毎に損耗も激しい。

 耐えきれる程度の弾数しかない、と考えるのは都合の良い妄想に過ぎないのだ。

 また、近づけばゲティンドーラが右腕に持っていた銃で撃たれる。

 小口径とはいえ、侮ってはいけない。


 だから、意表を突いて一気に攻略せねば、一真とアテルスペスに活路はない。


 怖気。止まる。

 魔術障壁展開。

 砲撃を防いだ。


 一真には《飛跳陣》という魔術障壁を複数作り出す魔術を用いた速い移動法はある。

 それでも長距離は魔力が持たないし、対応されたら緊急の回避は難しい。


 こうするしか、接近の方法がないと、印象付けるのだ。

 と、一真は再度走り出す。


 嫌な、予感が、した。


 体の正面に満遍なく毛穴が沸き立つようなちくりとした痛み。

 一真は走るのをやめた。脚に軽い痛み。


「三護障壁!」


 遅れて光の奔流が魔術障壁にぶつかり、抜けた。

 物理的な衝撃を受け流す斜めの壁をビームが通り抜ける。


「なっ!」


 アテルスペスの全長より尚太い経もある圧搾光の束だ。

 魔術障壁によって弱められたソレがアテルスペスの全身を焼く。


 一真はビームから横跳びで逃れた。


「アァァツッ!!」


 ビームによる損傷は薄い。

 装甲表面が溶けた程度。

 カメラアイはシャッター防御が間に合ったらしく無事。

 関節も加熱はしたが装甲コーティングが溶けて冷却したのか万全に動く。

 だが、一真は衝撃を受けた。


「ビーム!? なんで!?」


 今まで一撃で終わらせて来たであろう必殺の弾丸。

 近接信管と大質量弾による炸裂貫通弾ではなかった。

 圧搾光によるビーム攻撃だ。


 弾種が一種だけではない。

 と同時に、一真に1つの事実を突きつけた。


「魔術障壁で、防げない!?」


 ダメージは少ないが、障壁が通用しないことに変わりはない。

 そして何度も当たれば、戦闘不能まで追い詰められてしまうだろう。


 策を使って遠回りに接近する余裕は、無くなった。


「やるしか、ない」


 口に出して、状況を確認する。


「もう、行くしか」


 躊躇う暇は、ないのだ。


「《飛跳陣・二重》」


 多数の魔術障壁を作り出した。

 正面、敵神機とアテルスペスの間は避けて周囲どこにいってもいいように。


 一真の思い着いた策とは魔術障壁を蹴って跳ぶことだった。

 不規則な動きで狙いを付けにくくしながら上空に行く。

 そして、一気に距離を詰めて攻撃という単純なものだ。


 自然、魔力の消費が激しくなるため、徒歩で少しでも接近しておきたかった。

 だが、もうこれ以上は危険だ。

 一撃で終わる最初の攻撃も、確実に攻撃を通すビームも、ここに至っては同じ。

 受けること自体が危険なのだ。


 ぞわりとした怖気。

 一真は勘に従って飛び退きながら障壁を貼る。


「《はばむかべ》!」


 飛跳陣の障壁に着地すると同時に爆発が起きた。

 爆発は《はばむかべ》によって止まり、後方で鉄の杭が地面に突き立つ。

 避けた上で障壁を貼らねば、脚を失っていただろう。


 一真は前を見る。


「今から、殴りに、行く!」


 接近するしかない。

 偏差射撃を避ける為、相手から見て予測がしずらい動きが必須だ。

 一真は作り出した障壁群を様々な方向に跳ねる。


 魔術障壁は完全な透明ではない。

 光の加減で何かあることは分かるだろう。

 それに魔力を見る装備が相手に無いとも限らない。

 移動先にだけ出しては、狙いを付けるのは簡単だ。

 明らかに不要な数・位置にも展開しなくてはならない。


 その分消耗も増えてしまう。


「《飛跳陣》」


 少し距離を詰め、一真は新しく足場となる障壁を作った。


 遠い、遠い距離を詰める。

 攻撃が来たら避けた上で防ぐ。

 そして、効果がある攻撃をする。

 この3つを達成するのに残り魔力は足りるのか。


 一真は不安と焦りを感じながら、空を駆けた。

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