03 VSセコンダリア:グランサビオ③


 掴んだ勝機を確信に変えるため、一真は周囲を急いで確認した。

 強く追尾する黒い塊はまだ2つ生きている。

 威力は分からないが、意識外から攻撃されてはたまったものではない。


 2つはこちらに向かってきている。

 同じ回避方法を試すために一真は駆け出した。


「そろそろ終わらねばな。《はぜるひのや・むつがさね》」


 一真は視線をグランサビオに少しだけ向ける。

 6つの火球が形成されているのを見て直ぐに黒い塊に視線を向けた。

 《はぜるひのや》は射出した方向に真っ直ぐ飛ぶ。

 速度は速いが避けるのは難しくない。

 だがそれは《はぜるひのや》それだけを向けられた場合だけだ。

 今は前方から追尾する黒い塊が迫っている。

 どちらかに集中すればどちらかが当たってしまう。


 ならば同時ではなく1つずつ避けるのが良い。


 一真は軽くジャンプして両足で地面を踏みつけて走りを止める。

 目の前を火球が通り過ぎた。

 直ぐに一真は後ろに跳ねるように姿勢を変えて走り出す。

 そして背後を複数の火球が逸れていった。


「くっ、流石に避けるか。ならば【ナックスホロウの求める者たち】!」


 ディマオは再び異界の魔術を唱える。


「ぬっ」


 一真は少し呻いた。

 いつまで追いかけてくるのかは分からないが、単純に数が増えるのは厄介だ。

 それに、後方とグランサビオの2方向から迫ることになった。

 先ほどと同じ避け方は出来ない。

 それぞれの速度は一定なのだから、先に来た方を避けたら次のが当たる。


 一真が走り続けることを選んだ。

 考えはまだ纏まらず、当たるまでの時間を稼ぐしか無い。

 グランサビオを中心にした円周を回るような軌道でアテルスペスは走る。


 走りながら、一真は横目でグランサビオを見る。

 顔の向きだけでアテルスペスを追い、時折体をゆっくりと動かしている。


 掴んだ勝機を確信した。


 つまり、グランサビオはアテルスペスと同じだ。

 搭乗者の肉体スペック、または身体操作能力が神機の動きに反映される。


 一真はそうにらんだ。


 そしてもう一つ。

 この追いかけ続ける魔術は消耗が激しい。

 これだけをもっと数撃たれれば回避は出来なかっただろう。

 だがしない。

 使うためのリソース、集中力か精神力か魔力のどれかが足りないのだ。

 集中力がなければ術の構成を完成できない。

 精神力なら制御ができず、魔力なら魔術そのものが構成できない。


 なら、今こそその時だ。


「《飛跳陣》!」


 一真は走りながら準備していた魔術を行使する。

 計10枚の《はじくかべ》が目前とグランサビオの周囲に展開された。


「なんだ!? 障壁?」


 ディマオは一目で看破したが、一真は行動するしかない。

 目前の障壁に飛び乗りった。

 両足を使って勢いよくグランサビオの左側にある障壁にジャンプする。

 眼下は炎の大地だ。

 更に上、右背後――燃えさかる大地の上を飛び、背後を取った。

 グランサビオは顔を後ろに向け、遅れて体をゆっくりと。

 向けきる前に、勝負を決めると、一真は右手を強く握りしめる。


「取った!」


 障壁から踏み切り、グランサビオに向かって飛び込むように一真は跳ねた。


「なっ、く、《はばむかべ》!!」


 ディマオが大きな障壁を貼る。


 障壁くらい、一真でも正面以外にも貼ることができる。

 だから、一真には敵が防御障壁を作ることを読んでいた。


「《徹甲・――」


 一真は長い円錐状の障壁を拳前に形作り、爆炎の魔術を封入する。

 爆炎拳と構成こそは同じ、応用――ただ防御が硬い敵を貫き倒すための形。


「――爆槍拳》!!」


 紅く光る円錐槍の穂先を、グランサビオまで飛び込んで叩きつけた。


 先端がグランサビオの分厚い魔術障壁に突き刺さる。


「な、刺さ――」


 先端が開き、収束された爆炎は奔流が迸る。


「がぁッ!!」


 グランサビオが咄嗟に左に向けて倒れ込んだ。

 槍状の障壁から出た爆炎のビームがグランサビオの右腕を根元から溶かし切る。


「くっぐぅううう!」


 倒し切れなかった。

 アテルスペスは拳を引いて着地せざるをえない。

 燃えさかり炎を吹き上げる大地に、だ。


 両足が熱い。

 直ぐに耐えられなくなる訳ではないが、長くはいられない。

 直ぐにでも倒さないと、負ける。


 恐怖を抑えながら一真は焼ける地面に歩を進めた。


「かくなる上は」


 グランサビオは倒れたまま、グランサビオは左腕を一真に向ける。


「真名解放、ブラックロッドⅡ 143!!」


 グランサビオの左腕に残るローラが回転と光を強めた。


 なにかしようとしている。

 だが引けば負ける。

 一真は右腕を引き絞った。


「もう一発!」

「異魔合成。【《グランサビオのくろくあついあらし》】! そして――」


 周囲の炎が黒く染まっていき、熱を高めていく。


 もう一歩踏み込んで、間に合った――


「《徹甲・爆槍拳》!!」

「《はばむかべ》!」


 アテルスペスが右手に抱える爆炎の槍。

 それがグランサビオが作り出した魔術障壁に突き刺さる。


 爆炎の奔流がグランサビオの左腕と頭を飲み込み、消えた。


 周囲の温度が下がっていく。

 爆炎が消えたとき、グランサビオの左腕は溶けて無くなり、頭も半分抉れていた。


「俺の、勝ちだ」




 神前戦儀、決戦第一戦。

 勝者、ゼクセリア。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る