09 VSウェルプト:アンペールX②


 2人/2機は同時に動いた。


 一真/アテルスペスは近づく為に前に駆け出す。

 ゼラン/アンペールXは天道剣を右手に、超電磁ソードスフィアの十字を左手に持った。


 とにかく接近せねば勝ち目はない。

 事前に用意していた近づくための策も、将軍にはつうじないだろう。

 そう思った一真は、賭けに出ることにした。

 生来持つ目の良さを、一真は信じることにしたのだ。


「《はじくかべ》! 《はばむかべ》!」

「やぁっ!」


 一真はアテルスペスの両拳先に魔力障壁の球を作り出す。

 同時、アンペールXが踏み込んでソードスフィアを大きく振った。

 振りに合わせて破壊力を秘めた球体がアテルスペスの進路に交差するように迫る。


 一真は右手を伸ばしてソードスフィアの球体を拳先の球体に合わせた。

 接触の瞬間、弾かれるように球体は真逆の方にはじき飛ばされる。


「わっ!」


 超電磁の繋がりが真っ直ぐに張り詰めるより先に立ち消えた。

 将軍が左腕を引っ張られる前に消したのだ。


 ソードスフィアの球を無効化したアテルスペスが距離を詰める。

 間合いには遠い。


 アンペールXが天道剣を真っ直ぐ前に突き出す。

 切っ先に合わせるようにアテルスペスが剣を突き出した。


 ほとんど反射で動く。

 一真は目で見て思考をほとんどせず、腕を動かした。


 魔力障壁球と天道剣の切っ先は衝突しない。

 アテルスペスの拳は剣を避けるような曲がった軌道を描く。

 拳と連動しアテルスペスのどうは半身になり、背を天道剣の切っ先が擦った。


「おおおお!!」

「ああああ!!」


 走る勢いで拳をアンペールXに叩きつけんとするアテルスペスは、左腕を伸ばす。

 その腕をアンペールXが左に持った十字の先端で誘うと左腕を上げた。


 アテルスペスは左腕を外側に広げ、十字を避けつつアンペールXの剣を持つ右腕を開く。

 同時に右腕を動かして体を捻りながら右手を前に出した。

 アテルスペスの右手はアンペールXの十字を持つ手を抑えようと動く。

 直後、アテルスペスが掴んだアンペールXの左手は止まり、動かない。


 まばたき数回ほどの攻防だった。


 アンペールXは天道剣を持つ右腕を外に向けるよう抑えられている。

 アテルスペスは右手でアンペールXの腕を掴み、だが動かせない。


 双方、腕による攻撃を互いに封じ合っている。


 この状況、互角ではない。

 アンペールXは、腕に頼らぬ攻撃が可能だからだ。


 アンペールXの腹にある丸い蓋が開いてミサイルが顔を出す。

 額のXマークが光を帯びた。


 相手の左腕を解放し体を広げるように敵の正面から、一真は咄嗟に身を退く。

 アンペールXからミサイルと熱光線が発射された。


「《はじくかべ》《はばむかべ》」


 右拳先に障壁の光球が生まれる。


「超電磁、ソード」


 十字の先端が伸びて細身の剣状になった。


「はああああ!」「だああああ!」


 互いに突き出された光球と剣の先端が衝突し、双方砕ける。


「くっ」「その隙っ!」


 アテルスペスが拳を退き、アンペールXは退かなかった。

 先端が砕けた十字を握ったままの左腕の先、拳が勢いよく射出される。


 アンペールXの左拳に気付いた一真は上体を逸らそうとして、間に合わなかった。

 アテルスペスの頭に鉄拳が激突し、仰け反る。


「ぐまっ、がっ! があああ!」


 飛びそうになる意識を意地で留まらせ、一真は叫んだ。


 アンペールXは飛ばした腕に付いた鎖を巻き取って戻し、指を立てる。

 ミサイルの準備だろうと、一真は咄嗟にアンペールXの胸を殴った。


「つっ!」「わっ!」


 アンペールXは後ろに押されながらミサイルを発射する。

 発射口がズレたからか、ミサイルはアテルスペスの背中すぐ後ろを飛び去った。

 アンペールXが持っていた十字が地面に落ちる。


 人の手を再現するためだろうか。

 アテルスペスの特殊な素材で出来た拳は、鉄を殴ったような感触を一真に与えている。


 傷む拳と頭に手を当てたくなる衝動を抑え、目に力を入れた。

 相手を見る。

 そして、意思を強く持つ。

 一瞬で出来る事はこれだけだった。


「やったな!」


 アンペールXが顔をアテルスペスに向ける。

 その額は熱光線の発射機構だ。


「《ちらすかべ》!」


 大きく避ければ再び天道剣が振られてしまうと、一真は魔力障壁を貼る。

 質量の小さなものや光を四方八方に拡散させる障壁だ。


 額が光った直後に放たれた熱光線は、一真の狙い通りに消える。


 至近に入り、天道剣を持つ手は抑えた。

 だがアンペールXの内臓武装はまだ生きている。

 左腕も自由だ。

 その左腕自体も拳を射出したり、ミサイルが内臓されている。


 これ以上、アテルスペスにアンペールXを阻むすべは無い。


 だから、一真は勝負を急いだ。


「《はばむかべ》《はばむかべ》《はぜるひのや》!」


 アテルスペスは相手との間に魔術障壁を、左拳の先に光球を作り出した。

 光球の中は赤い。

 爆炎拳、その予備動作である。

 間の壁はせめてもの邪魔をさせない抵抗だ。


「そんな魔術なん、かっ!?」


 アンペールXに拳を握らせ障壁を砕こうとした将軍が言葉に詰まる。


「《はぜるひのや》! 《はぜるひのや》! 《はぜるひのや》!」


 一真の準備は終わっていなかった。


 アテルスペスの右拳先に宿る球体は、赤い光を強くしてく。


「ば、ばかな!」


 将軍が焦るのは初めてか、と一真は頭の片隅で思った。

 思うだけで、更に《はぜるひのや》を重ねていく。


「くっ!」


 将軍ゼラン・ヴェルートはその危険を放置しない。

 アンペールXの左腕と腹の全てのミサイル発射口が開き、額が光り、角が超電磁を帯びる。


「とまれえええええ!!」


 ミサイルと熱光線と拘束リングの一斉発射。

 魔術障壁が全てを阻もうとして、割れた。


 アンペールXはその先、アテルスペスに、左の指を揃えて立て、手刀を突き出す。

 アテルスペスは眼の前、アンペールXに、拳先の光球を向けて、右拳を突き出す。


「おおおおお!!」

「だああああ!!」


 攻撃の到達は同時だった。


 光球がアンペールXの胸に吸い込まれ、手刀がアテルスペスの腹を抉る。


「超、爆炎拳」「超電磁、チョップ」


 2機は同時に膝を突いた。光の渦が巻き起こり、包み込む。




 神前戦儀、序戦一組第4戦。

 双方大破、引き分け。

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