それは男の夢
「マッスル・メガ・パーンチ!」
俺が
「やっぱりあなたには常識がないのですね…… 超硬化魔法レンガの壁を、素手で一撃粉砕なんて」
エリザのあきれた声が後ろから聞こえたが、
「な、何者だ!」
正面には二百を超える魔族軍がいた。
魔族ひとりで人族の数十倍以上の戦力らしいが……
皆女性で、ピッタリとしたレオタードのような衣装にマントとブーツ。
角や牙が見て取れるが、怖いほどの美女集団だった。
魔族も女性中心社会だとは聞いてはいたが……
この状況は想定外だ。
手に持った現代兵器を俺に向けると、ボインボインと揺れまくるアレがソレで、色々な意味で圧倒されてしまう。
むんむんとした色香がここまで伝わってくる。
しかも皆、俺の姿を見てヨダレを垂らしそうな勢いだ。
聞いてはいないが、魔族は人族を食べるのだろうか?
「性的な意味では、美味しくいただいちゃいます。間違ってもその変な仮面を取らないでくださいね、危険度がうなぎ上りになりますから」
思念をつないでいるエリザが、俺にコンタクトした。
とっても有益な情報ありがとうございます。
「仮面の紳士、見参!」
俺がカッコ良いポーズをとると「キャー」と悲鳴のようなものが上がったが、恐れていると言うより、何だか盛り上がった感じだ。
一番近くにいる紫ショートボブのタレ目で可愛い系の魔族など、スレンダーな身体に不似合いな巨乳をくねらせ、大きすぎる八重歯の隙から本当にヨダレを垂らした。
もう、何かが間違っている気がしてならない。
「誰かと思えば…… 探す手間が省けたよ」
最奥部にいたのは、聖女に化けていた『氷結』だ。
他の兵より露出度の高いボンテージ衣装と爆乳は健在で、痴女度も群を抜いている。
「お前のたくらみはついえた! 待っていろ、今正義の鉄槌を下してやる」
俺がNO.1痴女を指さして宣言すると、
「ふん、今回の兵器は小娘鬼たちに支給したものとは火力が違うらしい。先ずはそこから試してみようかねえ」
悪役らしいセリフが返ってきた。
――このノリの良さは倒してしまうのが惜しいほど、捨てがたいものがあるな。
NO.1痴女こと氷結が腕を振ると、俺に向かって前列兵が発砲を始めた。
その武器は自動小銃やショットガン、ロケットランチャー等多岐に渡ったが、
「マッスル・マントガード!」
俺はすべての攻撃をマントで受け止め、後ろにいるエリザにも被害が出ないように動く。使い方がこれで合っているかは分からないが…… 便利なマントだ。
銃弾が足元にパラパラと落ち、煙が消えると無傷の俺が現れたせいか、美女軍団たちが息を飲む。
視線が下に集まるのが不思議で装備を確認すると、師匠からいただいたマントも、強化してもらった仮面も汚れひとつなかったが……
履いていた白いズボンが消し飛んでいた。
何とかパンツは無事だったが。
マントで身体を覆わず、エリザに対する流れ弾を気にして立ち回ったのが原因だろうか?
「なに露出を増やしてるんですか? アホなんですか?」
しかしこれはエリザの為に…… 何とか理解してもらおうとコンタクトしようとしたら、
「そのマントの気配、まさか先代魔王の!」
氷結さんがお約束通りのおどろきを披露しながら息を飲んでくれた。
やはり良いキャラだ。
「ええい、こんな玩具に頼る必要はない。魔族軍の実力を見せてやれ」
そして第二の指令を出すと、「キャー」と言う甲高い悲鳴と共に美女軍団が押し寄せてくる。
現代兵器を捨てると同時に剣を取るものもいるかと思ったが、彼女たちは素手がほとんどで、ごく少数が魔法の杖や…… 何故かロープや鞭のような物を握っていた。
そして皆レオタードのような衣装からボインボインと胸を弾ませ、顔が愉悦に歪んでいる。
クイクイのハイレグも、色々見えちゃいそうで危険極まりない。
「二百人を超える魔族相手に二人でなんて無理です! いくらアキラでも、良いように蹂躙されてしまいます、ここは撤退です!」
エリザからのコンタクトは悲壮感にあふれていたが、
「安心してください」
俺の心は弾んでいた。
だって、半裸の美女集団に押しつぶされるなんて……
前の世界の男なら一度は妄想したであろう、男の
+++ +++ +++
――正に死闘だった。
「おおお、男よ」「ちょっとどいてよ、あたしだって触りたいんだから」「女ばかりの魔王軍で働かされて日照ってたのはみんな同じよ、仲良くシェアしなきゃ!」
半裸の美女軍団から謎の怨嗟が聞こえ、
「蹂躙し、犯し、汚しつくしてから殺すがよい!」
痴女の親玉からは妙な指示が飛んだ。
初めのうちは投げ技が決まり何とかなったが、徐々に距離を詰められ肉林状態に持ち込まれてしまった。
多勢に無勢で寝技も決めれない。
強引に仮面を取られると、
「キャー、い、イケメンよ!」
エリザが危惧していた通り、攻撃は白熱を帯びた。
もう顔に当たってるのが誰のおっぱいか、この手を阻むのが誰の太ももなのかも分からない。なんだか良い匂いが充満してるし、さっきから触っちゃいけない女性の大切な場所へ手が誘導されるし、俺の下半身へも魔の手が伸びていた。
これは
「あ、あたしサキュバスなのに強引に魔王軍に入れられて、五十年以上ぶりの男なんです! 少しは分けてくださいー、せ、せめてひと舐めだけでもっ」
遠くで紫ショートボブさんの声も聞こえたが、魔王軍と言うのもどうやら大変らしい。
「こら変態、ハウス! 遊んでないで戻ってくるのです」
この熱気にあおられたのか、エリザの指示もおかしい。
「こうなったらっ」
紫ショートボブの魔族ちゃんは、とうとうレオタードの上をはだけ、凶悪な二つの膨らみをあらわにすると「えいっ」と、可愛い掛け声とともに俺に向かってダイブしてくる。
その後、簡単に他の美女に跳ね飛ばされたが。
「はっはっは! 皇帝陛下が特別視し、あのドールズまで手なずけた男がどれ程のものかと思ったら、その程度か。悪魔に辱めを受け、死地に赴くがよい」
痴女軍団のボスの横で、見覚えのある壮年の男が腹を抱えて笑った。
神父服のような物を着ているし、声も聞き覚えがある。
あれはセイバーさんが拉致ったはずの教主だ。
「悪しき力で民衆をたぶらかしていたのだろうが、魔族の協力で捕らえることができた。ふん、所詮下等な獣族…… しかも私を騙していたようだが、こいつは汚らわしき『狐』ではないか」
教主は楽しそうに、横に倒れているセイバーさんを蹴り上げた。
縄の縛りがマニアックで胸やボディーラインが強調されていたのがグッドだが、頬の横の痣はいただけない。
真美ちゃんたちが心配だし、そろそろこの
エスカレートした美女軍団たちは既にまともに服を着ていないし、エリザの目が三角になっている。
――あのエリザの殺気なら、本当に殺されかねない。
「マッスル・ジャーンプ!」
俺は美女たちを傷つけないように配慮しながら飛び上がり、一気に氷結と教主の場所まで移動した。
何かが絡みついたような気がしたが……
「やっとあぶりだせたな、魔族信仰者のボスよ」
俺はカッコ良いポーズをとりながら、教主を指さした。
「す、て、き ♡」
耳元から吐息が聞こえ、振り返ると上半身裸の紫ショートボブさんが俺にしがみ付いている。
「あ、あの、ほんの一瞬、先っぽだけでも良いですから…… やっちゃいませんか? あっ、あたし種続柄そっちは得意ですから、お楽しみいただけるかと」
恥ずかしそうにモジモジしながら訴える姿は、なかなか萌えるものがある。
やはりファンタジーも侮れない。
「
俺の返答に彼女はコクリと頷くと、
「絶対ですよ、約束しましたから」
そう言って大きなおっぱいを腕で寄せながら、両手を握りしめた。
「へんたーい、待ってて! 今こいつら全員惨殺してから、あなたも殺すからー」
遠くでエリザが、焦点の合って無い目でニコニコ笑いながら手を振っている。
どうやら事態は急を要するようだ。
エリザの凶悪な殺気のおかげで、魔族軍の動きが止まると、
「くそっ、一体お前は何者だ」
教主が氷結に近付きながら俺に向かって吠える。
「真の紳士を目指すものです。だから安心してください、女性には手を上げませんが、豚野郎は全力で殴り倒せますので」
俺が顔面にパンチをお見舞いすると「ぐぼっ」と、豚らしい悲鳴を上げながら教主が倒れる。
「エリザ、これはキミへのプレゼントです。少々醜いから後でリボンでもかけておきましょうか?」
俺が大声で叫ぶと、エリザの目の焦点が合う。
――これで殺されないで済むとよいのだが。
「バカ、何カッコつけてるんですか」
ポツリと漏らしたエリザの笑顔は可愛い。
やはり少女は美しく微笑むべき存在だ。
そうすれば、世界は少しづつ平和になってゆく。
そしてそれが、紳士の仕事だ。
教主の後ろにいたセイバーさんに駆け寄り、なまめかしく絡まったロープを解き、口に詰められた布を取ると、
「すまない、まさか教主がこんな奴とは…… ステージは私がいなくなると……」
せき込みながら話し始めたが、
「問題ありません、真美ちゃんは強い子ですから。今はゆっくり休みながらショーの続きをご覧ください」
俺は彼女の唇にそっと指を当て、優雅に一礼して氷結に向かう。
「さあ、フィナーレだ」
もうパンツとマントしか残ってなかったが、俺は鍛え抜かれたマッスルを氷結に見せつける。
魔族信仰者をあぶりだすために、ピンチを装って魔族軍にいたぶられたせいか、思ったより体力が低下していた。
決して男の夢を満喫しすぎたせいではない。
俺が何とか師匠から譲り受けた、まだ能力も良く知らないマントをひるがえし、カッコ良いポーズをとると、
「仕方ないわね! 協力してあげましょう」
エリザの声が脳内に響き渡る。
「何か作戦が?」
俺が心の中で問い返すと、
「そのマントの術式はもう解析済みです。後はこの天才美少女の指示に従ってくれれば…… もうそこの腐れ露出狂を逃がすことはありません」
自信に満ちた声が返ってくる。
俺はエリザの機嫌が直ったことに……
気付かれないよう、そっとため息をもらした。
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