ライアー・ゲーム
セリーナちゃんの能力は、
「あたいは『
だそうで、そのためには「ある程度信頼関係を築けた相手に長時間直接肌と肌を触れさせる必要がある」そうだ。
これは『狐』でもめったに現れないユニーク・スキルで、精神魔法の中でもかなり上位に位置するとか。
話を聞いていると『狐』の能力はSF小説に出てくるサイコメトリーのような感じで、触れることで他人の表層的な意志や物に残った思念を読むことができる。
また歌や遠吠えに念をのせて、想いを伝えるこもできるそうだ。
そのため帝国から危険視され……
害獣指定種の烙印を押され、差別と弾圧を受けている。
「そんな大切な情報を俺に話しても良いのですか?」
「依頼主からのオーダーをあんたに話せば、あたいの能力はバレる。それに、これは結構有名な力だからな」
セリーナちゃんがニヤリと笑いながら腕を組むと、大きく首の空いたウエイトレス服から深い谷間がムニュリと持ち上がった。
どうやら貧乳になる隠蔽魔法をかけていたみたいで……
スタイルもポンキューポンのグラマーさんに変わっていた。
悪くないけど、あの頃が懐かしい。
――ヒンヌー・カムバック!
「そうなんですか?」
色々な意味で俺が首をひねると。
「この街で『人形繰』と言えば、ひとりしかいない」
その話は俺も知っている。
『人形繰』と言えばこの街で唯一の三段、SSSと呼ばれる黒帯の冒険者で『ドールズ』のパーティー・リーダー。普段はその仲間や操った『人形』しか表に出ないため、顔も名前も明かされていない謎の人物だ。
噂ではこの街の亜人や獣族のリーダーでもあり、その能力から帝国や教会の密命もこなしているとか。
「しかし、なら尚のこと」
セリーナちゃんの顔と名前が、機密情報になりそうだが。
「オーダーはあんたを操って、あの勇者や元公爵令嬢の『魔眼』を誘導すること。それにある条件がそろえば、あたいは記憶を消去することもできる」
その言葉に頷き、
「了解です、それでどのように二人を誘導すれば?」
俺が微笑み返すと、セリーナちゃんはおどろいたように俺の顔を眺め、
「良い顔だ、それがあんたの素かい? それに頭の回転が速い男は好みだよ。――じゃあ、商談を開始しようか」
また、ケ・セラセラと歌うように笑いだした。
+++ +++ +++
真美ちゃんは来店早々不貞腐れていたし、改装したばかりのキレイな部屋に入っても、頬を膨らませて無言で俺を睨んでいる。
「どうしたの?」
念のため聞いてみると、
「あの腐れ巨乳用心棒がいなくなってからずっと元気がないし、今日は知らない女の臭いがする」
そう言って俺の胸に顔をうずめてクンクンと鼻を鳴らし、
「やっぱりコレ、あの金髪二重人格ビッチの臭でもない」
そう呟く。
なんだかその子犬っぽい動作には来るものがあったが、金髪二重人格ビッチって…… 本人が聞いたら逆上するだろうな。
――お前には言われたくないって。
「今日は商談がありまして、その時のものじゃないですか」
念のため自分の服の臭いを確認したけど、何も分からなかった。
「商談って、抱き合ってするの?」
「まさか」
これも何かの魔法なのだろうか? 冷や汗が出そうなのを堪えて笑顔を作る。
「あのね…… アキラがふさぎ込んでる間、色々考えたの。ほら、男の人ってそーゆーのが溜まるって聞いたことがあるし、変な女に浮気されても困るから。それに、な、なな、なぐさめてあげるのも彼女の仕事なのかなって」
真美ちゃんはベッドに腰掛けたまま俺の胸に顔をうずめてムニュムニュと呟く。
声も小さかったから後半は上手く聞き取れなかったけど、どうやら心配をおかけしてしまったようだ。
さて、ここからこの少女をどう説得するかだが……
セリーナちゃんの話では明日の夜、革命が決行されるそうだ。
「青の月が一番近付く『
そして最初の誘導は、
「それでも帝国兵の武力は脅威だ。だから革命を支持する市民たちは横流しの勇者の武器を手にするが……」
真美ちゃんのチート『アンリミテッド・ウェポンズメーカー』は、自分で召喚した武器を使用不能にすることもできる。
これは敵に武器を奪われた場合のセーフティー能力で、それを発動させないように、
「革命は必要だとか何とか言いくるめるか、明日の夜はいつものように激しいお楽しみで、勇者が革命に気付かないようにしてほしい」
と言う話だった。
「しかしそんなことをすれば、双方に被害が増えるのでは?」
俺がセリーナちゃんに問い返すと、
「それが起きないように作戦を練ってある。その作戦の邪魔をされたくないらしい」
どこかに不服があるような物言いだったので、
「革命には反対なのですか?」
俺はもう一度聞き返した。
「民権運動には賛成だが、物事には順序ってのがある。強引に何かを変えれば必ずどこかに歪が出るし、今回の革命の裏には余分なモノも動いてそうだ」
「ならどうして、この作戦に参加するのですか」
「政治にも革命にも興味がないのさ、誰が頭をとっても世の中そんなに変りはしねえ。興味があるのは金だ」
ニヤリとしたその作り笑いは、見覚えがある。
どこかの金髪二重人格さんが金の話をする時と同じだ。
――どうやらこの世界の女性も複雑らしい。
良い取引とは、相手が言った条件を素直に行う事じゃない。
相手の言葉の真意を読み取り、それを実行することが最上の仕事だ。
俺がセリーナちゃんやエリザの顔を思い浮かべると、
「ねえ、ひょっとして他の女のこと考えてない?」
勇者様の鋭い視線が俺を射抜いた。
「商談のことを少々考えてました」
女の勘は最凶の魔法だ。
やはりこれは全面降伏しかないだろう。
「まあいいわ、で、その…… どうするの」
まるで化けていた頃のセリーナちゃんのような態度に、俺は微笑みながら、
「じゃあ、こうしましょう」
お姫様抱っこしてベッドに寝かす。
「あ、あたし経験ないから、や、優しくしてね」
一度は聞いてみたかった素晴らしいセリフに感動しながら、俺はベッドの横に座り、真美ちゃんにシーツを掛けていつものように手を握った。
「相談に乗ってください」
やはり年頃の女の子と話すのは苦手だ。
嘘をついても見抜かれそうだし、仮に上手く言いくるめても、その後で俺の良心が崩壊しそうだ。
パチパチと瞬きする無垢な真美ちゃんの顔を見ながら、
「明日の冥月の夜、たちの悪いバカ騒ぎが起きるのですが、一緒に参加しませんか?」
俺は子供を寝かしつける親のように語り掛ける。
「どうして」
「ハッピーエンドを迎えるための準備です」
真美ちゃんも行方不明の先生も、そしてエリザやセリーナちゃんの為にも。
やはり方法はこれしかないだろう。
真美ちゃんは俺の目を覗き込むと、
「分かった、でも何があったのかちゃんと教えて」
そう言って俺の手を、魔法少女のような衣装からはみ出た大きな胸の谷間に押し付け、ゆっくりと深呼吸する。
その膨らみの感触は、まだ熟していない果実のように新鮮過ぎて、どこか硬くさえ感じた。
世の中の女性が全て包容力に富んだ年配だったらいいのに。そんな考えが頭をよぎったが、良く考えるとそれはそれで地獄絵図だな。
「じゃあ、少し長い話になりますが聞いてください」
俺が覚悟を決めてそう言うと、真美ちゃんはコクリと頷く。
そして俺はこの世界に来たきっかけから話しだした。
「そもそもあの女神は俺の顔を見て『ごめんなさい巻き込んじゃって、これは私のミスで……』って言ったんだ」
誰を巻き込んで、何がミスだったのか。
このセリフがそもそもの歪みの始まりだ。
そして先生のことやエリザのことも順を追って話をする。
もちろん、仮面の紳士のことは秘密にしたが……
「まあだいたいそうなんじゃないかって、気がしてた」
真美ちゃんの言葉にもう一度手を握り直し、
「まったく、嘘つきばかりだね」
自分のことを棚に上げてため息をつくと、
「あたしだって秘密の一つや二つはあるから。そんなのあたりまえ」
真美ちゃんが楽しそうに微笑む。
そう、もうこの
そして俺はハッピーエンドを迎えるために、どうしてもこのゲームに勝利しなくてはいけない。
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