1章10話 9時53分 第1特務執行隠密分隊、結成する!(3)



「そ、それでは、わたしからも……」

「はい! マリアちゃん!」


「恐縮ですが申し上げますと、わたしに分隊長なんて、かなりハードルが高いと考えております。理由は今日が入団初日の新兵だからです。しかし、せっかく与えられた任務、役職を、いきなり放棄しようとも、もちろん考えておりません」

「うんうん、それでそれで?」


「わたしごときでは対処できない事態が、これから任務を遂行するにあたり、恐らく、どうしても出てくると考えられます。その際、セシリア様はかなりご多忙と存じますが、現場レベルで処理できない問題が発生した場合、どこに報告や、判断の代理の依願をすればよろしいのでしょうか?」

「うんうん、そうだよねぇ~。セッシーも秘匿性を重視するあまり、新兵に分隊長をやらせるのはどうなの、って思っていたんだよ……。というわけで! マリアちゃん、念話のアーティファクトを出してくれるかな?」


「? はい、これになりますが……」


 すると、セシリアは椅子から立ち上がり、まるでスキップするようにマリアに近付く。

 そして自分のカズラ(改)からもアーティファクトを取り出して、それを、えいっ! と、マリアのアーティファクトに近付けた。


「よしっ、これで登録されたね! ちなみに、セッシーはよく特務十二星座部隊の会議とか、枢機卿の会合でアーティファクトの着信に応答できない時があるんだけど、その時でも、セッシーが直々に調査して、この人なら信頼できる! って判断した団員に繋がるから、安心してね?」

「よ、よかったですね……」


「アハハ! 流石に新兵に分隊長を任せるんだもん! このぐらいの保険は用意しておいてとーぜん、とーぜん! さて、他に質問は?」

「じゃ、じゃあ、シィからも1つ……」


「うんうんっ!」

「そもそも、スパイの調査って、具体的になにをするんですか?」


「まず、今この会議が終わったら、セッシーが調査してほしい団員の名簿を渡します」

「「「「はい」」」」


「次に、名簿と同時に渡されるスケジュール表に沿って、実際に団員の調査をお願いするよ。もちろん、君たちは新兵。そんな高度な隠密行動はできないはずだし、できないことを恥じる必要も全然ないけどねっ☆ だからマニュアルは当然、用意するし、それのとおりに作戦を遂行してほしいんだけど……もし、敵に存在がバレた! とか。敵が今にも国外逃亡しそう! とか。そういう事態に陥ったら……」

「陥ったら?」


 と、アリスが訊き返す。


「殺してもおっけーっ!」

「ハァ!? 相手って魔王軍の一員ですよね!? そう簡単に殺せるんですか!?」


 驚愕するアリス。

 しかし、セシリアは特に意に介した様子もなく――、


「だって、この分隊にはイヴちゃんがいるし。他の分隊よりも圧倒的にゴリ押しできるもん」

「「「あぁ~」」」


「そこで納得しないでほしいんだよ!?」

「もちろん、他の分隊にはイヴちゃんのように明らかに神様に愛されているような魔術師はいないよ? ただ、忘れてほしくないことが1つあるかな?」


「忘れてほしくないこと、ですか?」

「うん、この分隊は4人で1つということを」


「「「「――――」」」」

「別にね? セッシーは精神論を語っているわけじゃないの。気合で敵を倒せーっ、なんて言っても、意味がないのはわかっているし、実際、戦争では精神論を語る方こそ、負ける傾向にあるとは思わない?」


「それは、まぁ……」

「兵士は、特に上層部は、その中でもさらに参謀指令本部は、徹底してロジカルであるべき。それを踏まえて、4人で1つということを意識してほしい、ということは即ち、数を生かしてほしい、ということなの」


「あっ、もしかして……」

「シィちゃんは察したかな? そう、スパイなんてできる敵は確かに魔王軍の中でも選りすぐりのエリートのはずだけど、グーテランドの国内、ましてや王都で、なかなか他のスパイと、まぁ、連絡を取り合うことはできても、合流することは難しい。だから理想としては1対4、敵の援軍を許したとしても2対4か、どんなにイヴちゃんが余裕でも3対4の形を常に作り続けてほしい。数で優位になって、万が一、分隊の誰かが攻撃を受けちゃった、って、展開になっても、別の誰かが救助に向かえるような戦いをしてほしい」


「「「「――――」」」」

「まぁ! 戦いに突入するのは本当に最後の展開だし、仮に戦いに突入しても――」


「「「「しても?」」」」

「ぶっちゃけ、君たちなら倒せるレベルの容疑者しか、名簿には載せていないから♪ 君たちはね? 自分たちが思っている以上に、強いんだよ? だから第『1』特務執行隠密分隊なんだし」


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