2章3話 最後のやり取り、そして愛の告白(3)



 言葉に詰まらなかったものの、声量は小さかった。勢いは強かったものの、今にも泣きそうな声音だった。

 それでも、ティナの言いたかったことは確かにロイに届いている。


 そして次の瞬間、トン、と、控えめな音がした。

 ティナが別の誰かにアーティファクトを押し付けたことは、想像に難くない。


 正直、ロイはティナに申し訳なさを覚えていた。

 数日後には死体になって帰ってくるかもしれない自分に会話なんて、と。むしろ自分がみんなの声を聞きたいからって、ティナに会話を強制するのは残酷だったのかもしれない、と。


 そうして、他の女の子と比べると少し短いティナとの会話が終わると――、


『ゴメンね、ロイ。ティナちゃん、少し泣いちゃって……』

「ううん、ボクの方こそ、ティナちゃんを泣かせちゃったから」


 ティナの次はアリスだった。


「アリス、あの手紙――」

『書いたとおりよ。徴兵が終わってもロイが七星団に残るつもりなら、私もできる限り早く、七星団に入団する。ロイと同じ場所に立つ』


 アリスはみんなの中で一番凛としていた。

 自分は好きな男の子の帰りをただ指咥えて待っているだけの女の子ではない。と、そう言外に伝えるようなハキハキした声だった。


 アリスには自分が間違っていると思う物事に、真っ向から立ち向かう強さがある。

 だからもう、ロイがなにを言ったところで、アリスは必ず、いつか七星団に入団するのだろう。


『それまで、あなたが死ぬことは私が許さないわ』

「――そう、だね。ボクだって死にたくないけれど、本当に究極的な局面になったら、ボクは結局、自らの死を許しちゃいそうだし。だから、アリスは許さないでほしい」


 すると、アリスは一瞬だけ黙りこくってしまい――、

 しかし次の瞬間――、


『――ロイ』

「なに、アリス?」


『かなり恥ずかしいけれど、我慢して言葉にするわ。私は――あなたと結婚したい。何度だって愛し合いたい。子どもを生むことが必ずしも女の子の幸せとは思わないけれど、少なくとも、私はあなたと幸せな家庭を築きたい。あなたのことを、ロイのことを、世界で一番愛しているから』


 恥ずかしがって曖昧にすることもなく、照れくさくて誤魔化すこともない。

 アリスはキチンと、ロイに自分の胸に確かにある愛情を言葉にして送る。


「うん」

『ここで質問よ。結婚することも、愛し合うことも、家庭を築くことも、私1人でできることかしら?』


「できないね」

『そして、私の恋人はあなたしかいない。必ず帰ってきなさいよ、いってらっしゃい』


 アリスはティナのように嗚咽を漏らして泣きはしない。

 だが最後の方は声が震えていて、なにかを我慢していて急ぐように会話を終了させた。


 いくら先刻まで凛々しい感じであっても、流石に限界があったのだろう。

 強がっていても、悔しいことに、アリスのそれはギリギリ最後まで持たなかった。


 それで、残る1人の女の子は――、


『ロイくん』

「――シィ」


 最後の女の子はシーリーンだった。

 シーリーンは最愛の恋人に語る。


『ねぇ、ロイくん』

「うん」


『アリスはアリスなりの言葉でロイくんに愛を伝えた。イヴちゃんはイヴちゃんなりの言葉でロイくんを励ました。マリアさんはマリアさんなりの言葉でロイくんを気遣った。リタちゃんはリタちゃんなりの言葉で元気を伝えたし、ティナちゃんはティナちゃんなりの言葉で想いを伝えた』

「――――」


『なら、シィがロイくんに送るべき言葉も、シィのオリジナルでないといけないよね』

「シィのオリジナル?」


 すると、シーリーンは――、

 アーティファクト越しに大きく息を吸って――、


『~~~~っ、シィはロイくんのことが大好きです! 世界で一番愛しています! それはもう、シィの全てをあなたに捧げてもいいぐらいに! シィはロイくんにだったらなにをされてもいいし、むしろシィの方がロイになんでもしてあげたいし、なんでもされたい! 頭をナデナデされたいし、キスもされたいしハグもされたいし添い寝もされたい! これからもずっと恋人でいたいです! そしていつか結婚したいです! 正直、子どももほしいです!


シィのこの気持ちは…っ、この想いは……っ! っっ、恋よりも初々しくて、胸が切なくて、純粋で、もどかしくて……っ! 愛よりも熱くて、胸が幸せでいっぱいで、甘々で、ウソなんてなくて……っ! 世界中のどんな幸せよりも尊くて、名前なんて付けられないけど、どうか、ロイくんには、言葉にしても100%伝わらないコレが伝わってください!』


「…………ッッ」


『グス……、またね、なんて言わないよ、ロイくん。シィたちは心で繋がっているから、再会するまでもなく、いつも一緒だもんね』


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