ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
2章8話 21時37分 マリア、報いる!(2)
2章8話 21時37分 マリア、報いる!(2)
「マリアさん、どうかしました?」
と、アリスが問う。
「……確認ですけど、死神って、幻想種でしたよね?」
「そうですね」
「魔力場が揺れると魔力になり、その集合体である術式がさらに組み合わさると魔術になる。で、熱を生み出す魔術。水分を生み出す魔術。タンパク質やカルシウムを生み出す魔術。その他、身体のもととなる物を生み出す魔術。意思や魂を生み出す魔術。そういうのが1ヶ所で重なり合った結果、幻想種が誕生する。言うなれば生きている魔術、自我に芽生えた現象こそが幻想種ですよね?」
「えぇ、私もそう勉強しました」
「光が熱で屈折するのと一緒で、術式もなにかがあれば屈折する、とか?」
と、マリアは憶測を立てるが、シーリーンとアリスの反応は正直、いまいちだった。
「ロイの前世には魔力が存在していなかったって以前、聞いたことがあります。なら、魔術や魂の研究に関して言えば、私たちの世界の方が進んでいるはずです。術式がなにかしらの要因で屈折するなら、異世界よりも魔術に長けている私たちの世界の賢者の方が、より早く解明すると思いますけど……」
「なら、もし、その術式を屈折させるなにかが、紫外線や赤外線、超音波や超低周波音だったとしたら?」
「…………ッッ、そういうこと!?」
ハッ、と、するアリス。
一方で、シーリーンはわけがわからず首を傾げていた。
「わたしもこの前、スパイであるクリストフとの戦いで、イヴちゃんに頑張ってもらって、光を使って魔術を発動させたばかりですからね。それに、そもそも普通の詠唱だって、空気を揺らすついでに魔力を揺らす、なんてやり方ですし」
具体的には――、
「いわゆる進化論が主な理由だと一般的には言われています。たとえば音波には可聴周波数という領域があります。これは人間やエルフが耳で感知できる音の範囲で、これが高すぎると超音波、低すぎると超低周波音と呼び、人間やエルフには聞こえない領域の音になります。同じように光にも可視光線という領域があります。これも音波と同じように、人間やエルフが目で感知できる光の範囲で、可視光線よりも波長が短い光を紫外線、長い光を赤外線と呼び、人間やエルフには視認できない領域の光になります」
「ですが可聴周波数や可視光線なんて区分は、あくまでも人間やエルフを基準にしたモノです。一例としてコウモリなんかは人間やエルフが認識できない、前述の超音波を知覚できます」
「太陽の光を詳細に調べてみると、そのほとんどの領域が可視光線だとわかります。これは偶然ではなく、人間やエルフの目がこの領域の光を認識できるように適応したからと言われています。そこで質問の答えですが、なぜ人間やエルフが魔力を感知できるかというと、やはり人間やエルフの肌が魔力を感知できるように適応したからです」
「実は人間はもちろん、エルフですら全ての魔力を感知できるわけじゃありません。人間やエルフが感知できる領域を、勝手にボクたちが感知可能範囲魔力と呼んでいますけど、それよりも上にも下にも感知できない魔力の範囲があります」
「結論としては、大気に漂う魔力の大部分が感知可能範囲魔力だったからこそ、その範囲を特に知覚するように、人間やエルフが進化、適応して、名前と定義をあとから用意したんです」
――という答えを。
つまり――、
「可聴周波数外の音は当然、ここにいる全員に聞こえなくて、可視光線外の光も当然、ここにいる全員に見えなくて、でも、確かに世界に存在している。そして、もしも仮にそれらが死神という生きている魔術の輪郭を曖昧にさせているのなら――魔術に影響を及ぼすけど、魔術ではないから魔術を分析する魔術に反応しない」
「あとあとっ、紫外線や赤外線、超音波や超低周波音の研究はロイくんの前世の研究の方が先に進んでいる。っていうか、シィたちの世界ではまだまだ全然、研究が進んでいない。だから辻褄があう、ってこと?」
「あくまでも、それらが魔術にも影響を及ぼすという仮定の上での話ですが、そういうことですね」
と、ここで3人は目的地に到着した。
が、到着した瞬間、アリスが動揺する。
「でも、だったらどうすれば……? 私たちに聞こえないから超音波は超音波、超低周波音は超低周波音って言って、私たちに見えないから紫外線は紫外線、赤外線は赤外線って言うのに……」
「大丈夫です、わたしに任せてくださいね?」
すると、マリアはすぅ――と、息を吸って、静かに吐いた。
そして――、
「万が一、わたしが失明したらヒーリング、お願いしますね? それと、わたしが魔術を使っている間、周辺の警戒も」
「ほぇ!? 失明!?」
「マリアさん、いったいなにを!?」
「弟くんに教えてもらった科学知識を活かして、即興で新しい魔術を開発します。具体的には可聴周波数外の音を広い、可視光線外の光を視る魔術を!」
瞬間、マリアの周辺に魔力が渦巻いた。
見えずとも皮膚感覚でわかる。決して圧倒的で、破格の才能を感じさせるようなモノではない。しかし、新兵が紡いでいるとは思えないほど、複雑なのに精密に織りなされている魔術だった。
「
刹那、マリアの見ていた景色、そこに宿っていた色の彩度が上にも下にも限界を延ばし、聞いていた音が異形のそれへと変貌を遂げる。
シーリーンもアリスも、自分のことを心配してなにかを言ってくれているようだが、普段聞こえない音を意図的に拾っているせいか、やたら雑音が酷かった。これでは2人とやり取りをするには、一度魔術を解除するか、筆談を行うしかないだろう。
しかし、今はそのようなことを気にしている場合ではない。
改めてマリアが死神の方を見ると――、
「なるほど、そういうこと、なんですね」
幸い、自分の声だけは骨伝導のおかげでそれなりに聞こえた。
無論、本来、いつも聞いている自分の声とはかなり変化していたが……。
ともかく、マリアは死神に視線を向けたわけだが――彼女の答えはおおかた当たっていた。
死神は常に超音波、超低周波音、紫外線、赤外線をある程度、放出し続けていて、自分の出した音や光で自分の身体(=術式の組み合わせ)に影響を及ぼしている。
だが、なによりも驚いたのは――、
(周辺の空間まで歪んでいる……いえ、人間の眼球だと歪んだように見えているのは、そこも含めて、厳密には死神の一部だったから、ということですね。まぁ、死神の一部という表現が、それだと身体の中にめり込んでいるってことじゃないですか、という意味で適切じゃないのなら……死神を構築している術式、これの人間でも見える部分をわたしたちが死神と呼んでいただけで、見えない部分、感知可能範囲魔力以外の術式も、死神を構築している術式の一部だった、といいますか)
さて、今、マリアの双眸には遠近感、サイズ感が狂う前の死神が映っている。
もう、絶対に逃がしはしない。
そして死神の全てを認識したマリアには、すでにこの魔術を使わずとも、戦闘に参加している全員に、本来の死神を見せる手段が思い付いていた。
ゆえに、マリアはポケットから念話のアーティファクトを取り出して――、
「こちら第1特務執行隠密分隊の分隊長、マリアです」
『こちらニコラス。なんじゃ、マリアちゃん?』
「死神が行っている空間の歪曲……いえ、厳密には空間が歪曲しているように見える魔術的現象、それを今、解除します」
『――――ほぅ? 言ったな、マリアちゃん?』
「えぇ、先刻同様、吼えさせてもらいました。それで、是非ともニコラス様にお願いしたいことが」
『ガッハッハッ! 新兵がこのワシに取引か! マリアちゃんもロイくんやイヴちゃんに負けず劣らずの才覚の持ち主らしい! ますます気に入った! いいだろう、言ってみろ。と、言っても、すでに察しているがな』
「なら、是非とも、光景の歪曲の解除後、1撃目をわたしに」
『――――』
「先ほどから少ししか経っていませんが、妹をズタボロにした落とし前、付けてもらうのは今なんです」
『いいだろう! 許可する! ただし、報いる一矢はマリアちゃんが誇る至高の一撃に限る! 以上、存分に励め!』
「ありがとうございます!」
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