3章10話 21時28分 ロイ、出会う!(3)



「――――Hasse alle全てを恨め! Kämpfe全てと gegen争い alle und全て töte alle殺せ!


Menschen人は他者を sind犠牲に Wesen,しなければ、 die nicht堅牢なる glücklich栄華を sein können,貫けない ohne愚かなる andere仔羊 zu opfernである!


Der Mensch人は神 ist kein Gottにあらず!


Ein Mensch ist人は不完全 ein unvollkommenes存在であり、 Wesen und完全な kann niemals存在には ein perfektes決して Wesen seinなれない!


Kenne deinen Platz身の程を知れ! Und gib das Opfer zuそして闘争を認めよ!


Lassen太陽の Sie sich如く nicht von den煌々と輝く leuchtenden理想に Idealen己が瞳を faszinieren奪われて! Und schau人の世の nicht昏い weg von der現実から schmerzhaften決して目を Realität背けるな!


Das istそれが der minimale死者に対する Respekt最低限の für die敬意 Totenである!


Wer nicht自らの die Kraft弱さ hat, seine認める Schwächen強さなき zuzugeben,者共は―― sollte von Gottすべからく umarmt神に und in der抱かれて Realität現実に niedergeschlagen潰され werden朽ち果てよ!


【 罪深き世界 】シュルディゲェ・ヴァ―ルハイト!!!」


 刹那、世界が鳴動した。

 轟々と舞う砂塵や強く震える大地、ましてや風や空気なんて代物だけではない。空間の広がり、時間の流れ、この次元という世界の枠組みさえ、瞬間、神獣の心臓、その鼓動のごとくドクン――――ッッ、と、凄絶に跳ねる。


 同時に熾烈に明滅する視界。

 天地万物を灰燼と化すような漆黒でもなく、ましてや純白でもなく、透明な極光という意味不明な色彩が眼前を覆って、一切合切、ロイには全てが見えなくなった。


 惑星の寿命を豪快に削るかのごとく、地震と雷と噴火が同時多発的に起きたような圧倒的にして驚異的にして絶望的な、轟音や爆音という言葉では片付けられない――強いて喩えるならば、終焉の鐘の音が王国全域に響き渡る。


 言わずもがな、ロイ本人が喰らったわけではないのに――余波だけでこれだ。


 そのSランク闇属性魔術が死神に直撃した瞬間、王都にここまで壊滅的な被害をもたらした幻想種の強敵でさえ、ッッッ、ゴウ――――ッッッ!!!!! という天上天下に反響する音を轟かせて、軽く見積もって3kmは吹き飛ばされる。

 30mでもなければ、300mでもない。遠近感が狂っているせいで死神の規模が未だ誰にも判別できていないとはいえ、これが驚異的数字なのは言うまでもない。


 だがしかし、吹っ飛んだとしても、死神が霊的な存在だったのが幸いしたか。

 地面に叩き付けられる前に、それは空中で体勢を立て直す。


 とはいえ――発生した風は最終的に数多あまた幾重いくえにも及ぶ強大な衝撃はと変貌を遂げて、建物の窓ガラスは振動に耐え切れず悉く破砕する。

 王都のほとんどの地区の石畳の地面には縦横無尽に罅割ひびわれがはしり、空間の広がりが歪むとか、時間の流れが狂うとか、そのような神々の領域に存在する概念の変化でさえ、この仮面の男の一撃で起きてしまったような気がした。ロイは強く、強く、身体に杭を撃つみたいに強くそう思う。


 間違いない。

 相違ない。


 この仮面の男の実力は、アリシアにも届くだろう。


「…………ッッ、そんな……」

「お前が自分で言ったことだろう? あれは獣と一緒だ、と。なら、対処方法は単純明快だ。圧倒的な実力差をあれに痛感させればいい。獣なら、本能でわかるはずだろ。一種の神様、世界そのものに愛された幻想種でさえ、このおれには敵わない、と」


 思わず、あのロイでさえ一歩、後退あとずさった。

 自分が殺される幻影魔術を使えるジェレミア、自分に迫ってくる魔術大砲を撃ってきたアリエル、そして本当に腕を斬ってきたレナード。他にはリザードマン、ガクト、魔王軍幹部の死霊術師。彼らとの本当に命を懸けた殺し合いでも恐怖を理由に後退することがなかったロイが今、生まれて初めて敵前で足を後ろにやったのだ。


 絶望するなという方が無理な話だ。

 こんな化物に、勝てるわけがない。


 畢竟――、

 ――戦略的撤退しか、ロイには選択肢が残されていなかった。


「どれ――ついでだ。魔術だけではなく、刃物の扱いでも負けていることを教えてやるよ」

「…………ッッ! 飛翔剣翼、じゅうさんつい!」


 告げると、仮面の男は【闇の天蓋から降り注ぐ黒槍】を1本だけおのが右手に顕現させた。

 一方、まるであまける彗星のように速く、速く、神速でロイが展開した26個の飛ぶ斬撃が迫りくる。


 しかし、それに恐れを感じることも特になく、仮面の男はその内側で瞑目した。


 そして心を落ち着かせると――、

 開眼して――、

 口元をニヤつかせ――、


「――――児戯に等しい」

「…………ッッ!?」


 ロイは跳躍、敵と距離を置きながら戦慄してしまう。

 仮面の男は目にも留まらぬ神速を超越える神速、残像のさらに残像さえ宙に置くような猛スピードで、26個の斬撃を1本の槍で悉く撃ち払った。


 しかも、ギリギリの槍術そうじゅつではない。

 その仮面の男の佇まいからは、あくびしてでも同じことができた、と、そう言わんばかりの余裕さえ窺える。


 着地と同時に瞠目するロイ。

 彼が焦燥感に突き動かされて、再度、衝動的に肉体強化を全開にして後方に跳躍すると――、


「おいおい、どこに行くんだい?」

「バカな!?」


 いつの間にか、ロイが着地したすぐ背後に、仮面の男が立っていた。

 競うように振り向くロイ。否、彼は事実、競っていた。ここで競り負けたら本当に死んでしまうと理解していたから。


 振り向きざまに、己が聖剣をまるで回転斬りにように背後の敵に撃ち込もうとする。

 が、仮面の男はそれを本当にあくびしながら躱してみせた。


「流石に刃物の扱いで上回っても、エクスカリバーと【闇の天蓋から降り注ぐ黒槍】じゃ、前者に軍配が上がるからなぁ……。なんでもかんでも切断できる性能っていうのは便利だねぇ……。宝の持ち腐れだけど」


「~~~~ッッ、斬撃舞踏!」

「おっと」


 次元を屈折させて発生した4つの刃が、仮面の男の首にまったく同時に狙いを澄ます。

 しかし、やはり仮面の男は悠々と躱してみせた。


 生まれてから一番強く焦るロイ。たとえ特務十二星座部隊レベルの精神を持っていても当然、彼は特務十二星座部隊レベルの実力を持っているわけではない。

 アリシアやエルヴィスでも、自分の実力をロイのレベルまで落とした条件でこの男と殺し合え、と、そう言われれば、まず間違いなく平静さを保てないだろう。


 だが、それを嘆いている暇はない。


 上から下、左下から右上、右から左、再度左下から右上、上から下、右下から左上、刃を翻して今度は左上から右下、下から上、右上から左下。――ダメだった。

 敵を追い詰めるには絶望的に手数が足りない。ならばと言わんばかりに、斬撃舞踏を使って4つの刃を4方向に同時に動かし続ける。それを何度繰り返しても敵は悠々と躱し、今度は斬撃舞踏で発生した刃に、さらに斬撃舞踏を発生させて――ロイはついに16枚の刃で敵を斬り伏せようとする。


 それでも無駄。

 それでも無意味。


 最終的には16枚の刃に、この近距離なのに飛翔剣翼を付加しても、仮面の男はロイのことをもてあそぶだけ弄び、からかうだけからかった。


「ハァ~~~~…………」


 特大の溜息を吐く仮面の男。

 確かにロイの成長性には目を見張るモノがある。魔王軍の幹部にほしいのも事実だ。


 しかし、今、この瞬間の殺し合いに、やりがい、血沸き肉躍る悦楽があるか否か、と、そう訊かれれば、間違いなく否だった。


「ねぇ、本当にこっちにこないのか? 流石にそろそろ、自分の価値を理解しているだろ?」

「…………ッッ、半ば敗戦処理なのは認めるけど……価値を理解しているからこそ、敵の手に堕ちるぐらいなら死んだ方が世界のためだ」


「なら、仕方がないかぁ……」

「…………ッッ」


 次元を屈折させて16枚に増やした刃、その1枚の側面を仮面の男は槍で弾く。

 全てを切断する性能が宿っているのは、あくまでも物を斬る部分にすぎない。本来、物を斬るための部位ではない側面なら、槍で弾くのも簡単だった。


 だとしても、弾いたのはたった1枚。

 本当にそれだけであり、しかし、それだけで充分だった。


 たった1枚弾くだけで、充分に隙間はできた、と、そう言わんばかりに、一歩、仮面の男はロイに対して踏み込む。

 そして、ロイに対処する間隙を与えることもなく、彼の腹部に槍の切っ先を突き刺した。


「ゴバァ…………っ」

「ふむ……、決断力はやはりスゴイな。喰らうと察した瞬間、体内に防壁を展開したか」


 盛大に吐血するロイに、仮面の男は無感動に告げる。


 だが――、

 ――ロイの目はまだ死んでいなかった。


「小さくなれ!」

「は?」


 叫んだ刹那、エクスカリバーは一瞬で刃渡り10cm程度の短剣に変貌を遂げる。


 そしてロイは――、

 振り回すのにスペースも余裕も不必要になった聖剣で――、


「星彩波動オオオオオオ…………ッッ!」

「……………………ッッ!?」


 紛うことなきゼロ距離で、仮面の男に対して星彩波動を叩き込んだ。仮面の男の上半身は消滅し、あとに残ったのは断面が醜悪な下半身だけだった。

 が、しかし、それはロイの勝利を意味しない。


「ふぅ……、なるほどねぇ……。おれも実は観戦していたんだけど、思い出したよ」

「は……? そんな…………、ここまでしても…………」


「お前は前回の大規模戦闘で、大幅に星彩波動の使用回数を更新した。まぁ、最終的に、それもお前が死んでしまった一因になったのかなぁ、なんて、そう思わなくもなかったが……なるほど。考えてみれば当たり前か。一度、星彩波動を5発とか6発とか撃てるようになったのに、休暇を経験したら使用回数が1回に戻っていました~、なんて、ありえないからな」

「…………ッッ、死霊術による死者蘇生か!」


「いやぁ……、やっぱり殺すのは惜しいなぁ……、本当に魔王軍の幹部にほしいよ。実に巧妙に切り札を隠していたものだ。あぁ、そうか、自分は星彩波動を2回以上撃てると理解していたから、一番初めに星彩波動を撃てたのか……。で、まんまとおれは、もうこいつにはそれが使えない、と、勘違いしたわけねぇ……。いや、マジで、本当に素晴らしい。このおれに1回でも駆け引きの敗北を教えてくれるなんて」

「ねぇ……」


「ん?」

「…………ッッ、せめて、名乗れよ。お前は、誰だ?」


 吐血して、今にも眼球に差すハイライトが消えそうな感じで、ロイは問う。

 そして、仮面の男は炎上する王都の街並みを背景に――、

 崩壊する王都、民草の生活を嘲笑うかのごとく――、


「――――確かに、その血の量、どうせ死ぬんだ。天国に逝く前に教えてやるよ。おれは魔王軍最上層部、革命執行派閥、天望楼てんぼうろうの序列第5位、【土葬のサトゥルヌス】。七星団に紛れ込んでいる最後のスパイとは、おれのことだ」


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