ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
2章8話 19日21時 イヴ、促される。(3)
2章8話 19日21時 イヴ、促される。(3)
「アリスさん、どうでしたかね?」
「ウソを見抜く魔術を発動していましたけど、ウソの反応は一切ありませんでした。マリアさんは?」
「現代知識についての質問に弟くんが答えられたのは、みなさん聞いてのとおりですが……魔術で逆探知しても、弟くんが通話中にいた座標は
「うん、シィのアーティファクトにも、通話中、ロイ・モルゲンロートって文字が浮かんでいたから、少なくともロイくんのアーティファクトからの着信だったのは間違いないと思います」
「こういう時は、セシリアさんに訊くのがいいと思うんだよ!」
イヴの言うとおり、それが一番だった。
むしろこういう事態に直面して、それでも上官に直接の確認を試みないなど、愚の骨頂である。しかし――、
『セッシーはただいま、特務十二星座部隊の会議中♪ ご用の方は、セッシーの部下にお繋ぎするから、ぜひぜひ、そちらまで~』
『はい、もしもし』
と、すぐさま男性の声がアーティファクト越しに聞こえてくる。
「突然、申し訳ございません。わたし、第1特務執行隠密分隊の隊長、マリア・モルゲンロートと申します」
文字通り、第1特務執行隠密分隊は隠密にしておくべき分隊なのだが、マリアは電話越しの相手に伝えてもいいと判断した。
理由は単純明快、第1特務執行隠密分隊が結成された
『はい、確認しました。用件をどうぞ』
「死神の件についてです。死神の出現を第1特務執行隠密分隊だけ、セシリア枢機卿ではなく、別の団員から知らされました。そのことを訝しみ、情報と、これからの行動に対する指示の真偽を確かめるべく、こうして念話を差し上げました」
『問題ありません。死神の件は本当です。指示どおり、現場に急行してください』
「了解です。疑ってしまい、誠に申し訳ございませんでした。通信を終了します」
『了解、通信を終了します』
発言どおり、通信を終了するマリア。
無論、この状況で全てを盲目的に信じるほど、彼女はバカではない。上官に対して失礼だとは思ったが、先刻、アリスがロイにしたように、マリアも今回の念話でウソを見抜く魔術を使っていた。
しかし、それでもウソの反応はしなかった。
ならばもう、流石に行動せざるを得ない。疑念はやまないが、もう自分たちでは、これ以上の真偽を確かめる
「マリアさん。怪しいのは私も同じですけど、これ以上は……」
「そうですね。それじゃあ、イヴちゃん」
「うん、【光化瞬動】で跳ぶよ!」
刹那、4人が光ったかと思うと、その場から消失した。
間違いなく、指示されたとおり、武器鍛冶職人のピエールの工房の屋根まで跳んだのだ。それに関して言えば、本当に間違いはない。
しかし――、
「――――本来ならイヴの『覚醒』は来年の予定だったが、それでは遅いからな。今回の襲撃に前倒しする」
ほんの数秒前までシーリーンたちがいた市場、そこを俯瞰できる建物の屋上に、その男は立っていた。
手には念話のアーティファクトを2つ持っている。
見たところ年は40代なのに老人のように髪は全て白く、双眸は紅い。
180cmに近い背丈に加えて、服の上からでもわかる引き締まった肉体が印象的だ。
とはいえ顔も引き締まっているはずなのに、本人の雰囲気のせいで瘦せこけて見えるほど、まるで幽鬼、亡霊のような男だった。
世界に、現実に、救いようがないほど絶望しているのだろうか。物理的には凛々しいはずの
とても気怠そうで、生きることにかなり疲弊しているのだろう。
喩えるなら、彼の周りだけ空間に存在する
ロイが以前戦ったリザードマン、そしてガクト。
彼らは魔王軍の軍人として職務を全うして死んだ。敵ではあるが、そこには確かに軍務を全うしようとする『真面目さ』が見受けられた。
アリシアが以前戦った死霊術師には強敵との戦いを楽しんでいる節が見受けられて、強いて彼の人としての特徴を挙げるならば、軍人の割には、リザードマンやガクトと相反して『お調子者』というふうにでもなるのだろうか。
事実、彼がお調子者、戦闘狂ではなく真面目な軍人ならば、あそこまでノリノリでアリシアと売り言葉に買い言葉合戦、挑発合いをしなかったはずだ。
最後に、イヴとマリアがつい先日戦ったクリストフはどこか軽薄だった。まるで舞台役者のような言葉遣いが印象的だったように思えるし、実際、彼が戦闘中に浮かべていた表情は作り物のようだった。
強いていうならば、魔王軍のスパイという自分に陶酔しているかのように。
しかし、その男はなにかが違った――、
――人種や使う言語など、表層的なモノではなく、もっと根源的ななにかが。
個性がないというわけではない。なのにその個性とは、個性が薄いという個性。
人としての性格、自我がないわけではない。なのにその性格、自我とは、他人の記憶に残るようなインパクトが皆無に等しい性格、自我だ。
目も表情筋も、恐らく心も死滅している。
なのに魔王軍に所属している以上、なにかしらの目的、つまり意志を持って活動しているはずなのだが――死んだように生きている矛盾、それを抱えている異端がそこにいる彼である。
さて――、
――七星団にはもちろん、魔王軍にも階級というモノは存在する。そしてその階級を表すのは、一例として制服の
その男の肩章には、星がたったの1つ。
しかし、通常の魔王軍の制服の肩章に付いている星とは、そもそも形が違った。
それがなにを表しているのかというと――、
「魔王軍最上層部、純血遵守派閥、
死体の眼球のように光が差さっていない悲しい瞳で、ゲハイムニスはほとんどの感情が死滅したような声で、独り寂しそうに呟く。
ゲハイムニスほどの実力者ならば、第1特務執行隠密分隊を欺くなど造作もなかった。
ウソを見抜く魔術?
そんなモノ、自分自身を一時的に洗脳して、自分でもウソと理解しているウソを、己に真実だと思いこませれば、簡単に攻略できる。
逆探知して念話の相手の座標を特定する魔術?
そんなモノ、『とある方法』で簡単に攻略できる。
この日、この夜、セシリアが特務十二星座部隊の会議に出席することは知っていたし、マリアが念話した相手だって、すでに殺していた。
そして彼の念話のアーティファクトを強奪して、魔術で声を変えて、再度、マリアと念話したのだ。
当然、第1特務執行隠密分隊が役立たずというわけではないが、いくらなんでも相手が悪すぎた。
魔術込みでゲハイムニスと駆け引きをするならば、特務十二星座部隊レベルの器が必要だったのだから。
「あとはシャーリーが上手くやってくれれば、全ては俺の計画どおりだが――」
言わずもがな、ゲハイムニスが言うシャーリーとは、特務十二星座部隊の序列第4位、シャーリー・ヘルツ本人だ。
同姓同名の別人でも、影武者でもない。
「――――しかし、流石に騒ぎに乗じてヴィクトリアを処理するのは難しそうだな」
少し遠く、星下王礼宮城に視線をやるゲハイムニス。
比較対象がないと彼の強さがよくわからないだろう。
たとえば前回の大規模戦闘で、一時的にもとの姿に戻っていたとはいえ、基本的には幼女化しており、心臓に弾丸のアーティファクトを撃ち込まれ、最後に脳みそを削られて弱体化していたとはいえ、あのアリシアと互角だった死霊術師。彼でさえ、魔王軍の下級幹部だ。幹部には変わりないとはいえ、その上には中級、上級、そしてゲハイムニスが立っている最上層部がある。
つまり、これからわかるべきことは2つ。
魔王軍内部において、ゲハイムニスの上にはもう、手で数えるぐらいしか実力者がいない=そのレベルの上層部が出張ってきた、ということ。
そして、王都が混乱すれば、必然的に王女であるヴィクトリアに特務十二星座部隊の護衛が付く=自分でもあの12人を相手にするのは厄介=しかし勝てないわけではない=両者が戦えば、王都には壊滅的な被害が及ぶ、ということだ。
「まぁ――よい。今回の目的はイヴの覚醒だけだ。ヴィクトリアの殺害は後回しでいいだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます