ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
2章7話 19日21時 イヴ、促される。(2)
2章7話 19日21時 イヴ、促される。(2)
「弟くん、わたしは弟くんから現代知識というモノを教わりました」
『? そうだね。この世界の魔術に応用できるかもしれないから、教えてくれませんかね、って、言われたし……。特に物理学について……』
そう、実はマリアはロイから現代知識を教わっていた。
いや、マリアだけではない。戦うことを決めて、その後、ロイにその決意を伝えた段階で、シーリーンとアリスだって、現代知識を彼から教わることになったのだ。無論、戦場で使える知識も多数あるから。
「相対性理論を提唱したのは?」
『アルベルト・アインシュタイン』
「アインシュタインは特殊相対性理論と一般相対性理論、主にどちらが決め手となり、ノーベル物理学賞を受賞しましたか?」
『どちらでもないよ。決め手となったのは光量子仮説に基づく光電効果の理論的解明、だね』
「日本で初めてノーベル賞を受賞した物理学者は?」
『湯川秀樹』
「なにが決め手となり、向こうの年号で何年にノーベル物理学賞を受賞しましたかね?」
『中間子の予想が決め手となり、向こうの年号で、西暦1949年に受賞』
再度、マリアは黙りこくってしまう。そんな彼女に、シーリーンとアリスとイヴはジッ……と真剣に視線を送り続けた。
しかし、マリアは口を閉ざしていても意味がない、時間の無駄と理解すると――、
「弟くん……その、疑ってしまい、ゴメンなさい」
『いや、大丈夫だよ、姉さん。むしろ疑わない方こそ、せっかくこの世界でボクたちしか知らない情報があるのに、それを符号に使わなくて心配かな? もう七星団に入団して立派なプロなんだし』
「あぅ!」
と、涙目になってしまうイヴ。
やはり周囲の反応を察するまで、ロイのことを疑っていなかったらしい。
「まぁ、それもそうよね」
「それでロイくん? 今夜発動する魔王軍のトラップってなんなのかな?」
すると、ロイは再度、深呼吸して――、
引きずられるように、シーリーンたちも生唾をゴクリと呑み込んで――、
『――――ボクの知る女神、全ての意識のオリジナルではないけれど、この世界、この惑星には神様のような存在って多いよね?」
「そう、ね。えぇ、宗教的な神様ではなく、特にお姉様の同僚にもいる幻想種なんかは、実際に見たことある人も多いんじゃないかしら?」
「それにドラゴンだって昔は今よりも信仰の対象でしたし、神様の定義にもよりますが、弟くんの前世よりは間違いなく多いでしょうね」
『それを踏まえてシィの問いに答えるけど――王都近辺なんかじゃない。今夜、王都の真上に死神が現れる』
「「「「……は?」」」」
と、シーリーンたちはみな同様に呆けてしまう。
今、アーティファクトの向こうのロイはなにが現れると言った? と。
『確かシィたちもクリストフっていう死霊術師と戦ったんだよね?』
「う、うん……」
『つまりね? 魔王軍は死霊術師をスパイとしてグーテランドに入国させたあと、そこで彼らに霊魂を解き放つよう命じて、神格としての性質上、絶対にきてしまう死神を王都におびき寄せようとしているんだ』
「そ、それが……っ、魔王軍の狙い! 既存の状態、以前から打ち終えていたスパイを送り込むという戦略を、見事に再利用していますね!」
『まぁ、ボクたちから見たら現状の再利用かもしれないけど、魔王軍から見たら、最初から決められていたことかな? とにかく、それが今夜、顕現するんだ』
「ろ、っ、ロイくん? し、っしし、死神って、あ、あれだよね? 大きな鎌を持っていて、黒いローブを被っていて、なによりも、人々の死への畏敬が具象化した、っていう……っ」
『うん、ボクの前世でもそういう認識が強かったし、こっちでもその認識であっていてよかったよ……』
「……っ、全然よくないわよ! 相手は一種の神様なのよ!? しかも神様として保有しているテーマがあまりにも戦闘向きすぎる!」
アリスが叫ぶ。
人が賑わう市場ではシャワーほどの注目を浴びる大声だった。
七星団の団員が大声を出すのはマズイ。国民に、なにかあったのか? なんて、不安を抱かせかねない。
しかし、ロイも、マリアも、そんなアリスを注意できなかった。
『みんなも、シャーリーさんが幻想種、ってことは知っているよね?』
幻想種――それは厳密には生物ではない。
何回も前述しているが、魔力場の波が魔力であり、そして以前、ロイとレナードがアリエルと決闘した時、アリエルの固有魔術の原理をレナードが見破った。簡単にまとめると、自然界に予め存在する術式を集めているだけ、と。
幻想種はそれをさらに複雑にしただけで、本質は一緒だ。
世界には、水分を集める魔術がある。熱を集める魔術がある。炭素を集める魔術がある。たとえばゴーレムなんかには、限りなく自由意思に近い意思を持たせる魔術がある。それこそ死霊術のように、霊魂を操る魔術がある。
それらの術式が奇跡的に一ヶ所に重複して、魔術が人間の形をして生きているように、他人からは見える。
その現象そのものが幻想種なのだ。
「そして、死神もその幻想種に分類される、ですよね?」
『そう、姉さんの言うとおりだよ』
「どういうこと、お兄ちゃん?」
いまいちピンとこないイヴがアーティファクトの向こうのロイに問う。
すると、なんとかロイは動揺を押し殺して、子どもを諭す親のように、落ち着いてイヴにも伝わるように伝えようとする。
『わかりやすく言うとね、特務十二星座部隊の序列第4位と同じレベルの敵兵が、王都に突然出現する、ってことだよ』
「うえっ!?」
と驚愕するイヴ。
声に出した驚きは正直、可愛らしいモノであったが、その実、表情には狼狽と動揺と戦慄が浮かんできており、色は真っ青を呈している。
イヴだって魔術師としてだいぶ才能に恵まれているが、少なくとも現時点では、特務十二星座部隊には届かない。
そしてその特務十二星座部隊の隊員たちだって、自分と実力が拮抗している敵と殺し合って、周囲に被害を出さない、なんてことは不可能だ。
それはつまり――、
「王都から……っ、死者が出るのは免れませんねッッ!」
「…………ッッ、そんなの、もう私たちだけで対処なんて……」
『いや、アリス、待ってほしい。ボクが念話したのは第1特務執行隠密分隊だけだけど、今、セシリアさんが他の隠密分隊にも指示を飛ばしているし、参謀司令本部で作戦が決まり次第、流石に隠密分隊以外の部隊にも情報が公開され、合同作戦が開始されるはずだ。スパイはすでに捕まっているか殺害されているかで、十中八九対処できているから、もう情報を公開してもリスクは少ないし、なによりも、それほどまで事態は
「逼迫している状況だけど、だからこそ援軍が期待できる。喜んでいいのか怖がればいいのか、わかりませんね……」
『それにもう1つ。流石に死霊術師に入国を許して、王国の領土内で霊魂を解き放たれる。その結果、死神を呼び寄せることになった。なんて、脅威ではあるけど、引っかかったら間抜けすぎるからね。七星団はそこまで無能集団じゃない。つまり――』
「――つまり当然、七星団も対処法をマニュアル化している、ってこと?」
『シィの言うとおり。で、新兵であるシィたちは、そのマニュアルを知らないよね? 事態のわりにだいぶ前置きが長くなっちゃったけど、そのマニュアルに従った作戦をシィたちに伝えるのが、今回のボクの念話の目的なんだ』
「りょ、了解! だよっ」
『イヴは
「ロイ、そのあとは?」
『流石にもう避難は開始されているんだけど、そのピエールさんの工房の屋根に着地したあと、西におおよそ750mの上空に、死神が現れる、っていう予想が出されている。第1特務執行隠密分隊がピエールさんの工房の屋根に待機するように、他の部隊もその死神を囲うように待機する手はずだから、死神の出現と同時に集中砲火、っていうのが作戦だ』
「? 意外とマニュアルって大したことないよ? 出現場所を予測して、そこに待機して、あとは集中砲火、なんて」
『あはは……、まぁ、数でゴリ押すのが結局一番だし、第1特務執行隠密分隊に課せられたのはそれだけってだけで、他の部隊や上層部はさらに複雑で繊細なマニュアルをこなすわけだから、ちょっぴり肯定はできないかな?』
ともかく、方針は決まった。
『それじゃあ、みんな、気を付けてね?』
「うん!」
「わかっているわ」
「了解だよ!」
「いってきますね」
みんなの返事を聞くと、アーティファクトの向こうのロイは通信を終了させた。
そしてその直後、4人は顔を見合わせる。シーリーンはどこか不安そうで、アリスは真剣で固くて難しい表情だった。マリアは思案顔で、あの一番お気楽なイヴでさえ、少し、むむむ……、という感じである。
すると、マリアが早々に口を開いて――、
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