ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
2章4話 19日17時 ティナ、お墓参りをする。(1)
2章4話 19日17時 ティナ、お墓参りをする。(1)
リタが魔王軍のスパイを殺した数時間後――、
空も、雲も、街並みも、城壁も、川も、山も、世界が幻想的に赤らむ中、とある2人が、とある場所で、邂逅を果たそうとしていた。
鳥が巣に帰り始めて、王都に住む夜行性の野良猫や野良犬が活動的になり始め、外で遊ぶ子どもたちは家に帰る。
そんなどこか物寂しくて感傷的になってしまう夕暮れ時のことだった。
さて――
そしてその大聖堂の裏手には、王国の歴史の中でも特に素晴らしい功績を挙げた騎士や魔術師や学者が眠る墓地があった。もっとも、特に素晴らしい功績を挙げたとしても、流石に宗教が違ければ、そこに眠ることはなかったが……。
とにかく、その墓地の1つの前に、ティナ・ケットシー・リーヌクロスは跪いていた。
十字架を模した墓の前で、祈るように手を組んで、静かに、ただ静かに目を閉じている。
十字架の土台にはグーテランドの文字で、クラウス・ケットシー・リーヌクロスと書かれていた。
心の中で行うのは、死んでしまった祖父、クラウスに対する挨拶と、近況報告と、そして、また来るからね、という別れの言葉。これがいつもの墓参りだった。
そして経つのは十数秒。
ティナが目を開けて立ち上がると、ふと、背後から声をかけられる。
「ティナ、久しぶりじゃなぁ」
シルバーグレーの編み込みセミロングを、ふわっと揺らして振り向くティナ。
そこにいた人物を認識すると、彼女の真珠色のタレ目が丸く見開かれる。
そこに立っていたのは初老の男性だった。
ザクザク、と、適当な感じで切り揃えられた短い白髪。いわゆる肉体派と言うべき身体をしているのに、身にまとっているのは七星団の魔術師の方の制服である。
ティナは彼のことを知っていた。
特務十二星座部隊の序列、元第3位、現第11位、国王陛下より【宝瓶】の称号を授かったエクソシスト、ニコラス・フライフォーゲル本人だった。
「ニコラス……、おじ……さん……」
「ガッハッハッ、相も変わらずティナの声は小さいのぉ!」
「ど、どうして、今日は……、その……、こち、らに?」
「なぁに、21時に会議があるのじゃが、珍しく、それまで暇じゃったんじゃよ。それに――」
すると、ニコラスはティナの前を通りすぎる。
そして先ほどまで彼女がしていたように、故・クラウスが眠る前で、跪き、持参してきた献花を置き、手を組んで瞑目して、そしてゆっくり目を開けた。
「ティナの先輩であるロイが魔王軍の幹部を討った大規模戦闘から、まだ一度も顔を見せにこんかったからの。戦闘と戦闘の合間にこまめに顔を見せにこんと、いつ死んで次の墓参りができなくなるか、わからんからじゃよ」
すると、ニコラスは立ち上がり、茜色に染まる空を仰いだ。その哀愁が漂う背中を、ティナは黙って見ていることしかできない。
それを察して、ニコラスの方から、今度はティナに質問した。
「それで、ティナはなぜ墓参りにきたんじゃ? もちろん自分の祖父の墓じゃし、くるなと言っているわけではないんじゃが……」
「友達……、知って、いるかも、しれま、せんが、イヴ・モルゲンロートちゃんが……、その……、七星団に………………、入団、し、たので、その……、えぇ、っと……、おじいちゃん、か、ら、勇気を、も、ら、いに…………」
「――――」
ニコラスは静かにティナの話の続きを待つ。
ティナが幼い頃から彼女を知っているのだ。こういう場合、変に相槌を打たず、言いたいことを全て言い終えるまで、ただ静かに待ってあげた方がいい、ということはすでに熟知していた。
「…………ワ、タ、シ、も、その……、戦いた、いんです……。もちろ、ん……、戦い、なんて、好き、じゃ、あ、りませんし……、ケガす、るの、も、怖いんですけど……、みん、な、が、頑張って、い、るのに……、自、分だけ頑張らない、の……、は……、その……、えっと……、なんか……、モヤ、モヤ、して……」
「――――」
「ワタシは、みん、な、より……、絶対に弱い、です…………。でも…………、っ、少し、でも、力に、なれ…………たら、って……」
ティナは俯いて、自分の服の裾を両手で、ギュッ――と握った。
で、察するに言いたいことがひと段落したらしいので、ニコラスはゆっくりと口を開く。
「ワシが序列、元第3位なのに対し、クラウスは序列、元第2位。今思えば同僚だというのに、一度もワシはあいつに勝てんかったなぁ」
穏やかな墓地に、一陣の春風が吹き抜けた。
2人の肌を優しく撫でるように、そして両者の服の裾をはためかせたかと思うと過ぎ去っていく、まだ肌寒い春風。
ニコラスは感慨深そうに、しかし言葉に詰まらずにスラスラと語る。
即ち、クラウス・ケットシー・リーヌクロスは生前、特務十二星座部隊の序列、第2位だった、と。それはつまり、ティナは元特務十二星座部隊の一員の孫娘である、と。
「ティナ」
「はい」
「戦争は嫌いか?」
「…………はい。それで、おじいちゃんが、その……、死ん、じゃった、ので……」
「そうじゃなぁ……」
別段、ニコラスはティナの想いを否定しなかった。
自分だって同じだったから。戦争なんて、この世から根絶されるべきだと思っていたから。
戦争をすれば大勢の人間が死ぬ。
科学的、魔術的には発展する。戦争は発明の母。そう主張する人もいるが、科学と魔術のますますの発展のために、有象無象の命は消費されるべきなんて、それは悪の考え方だった。少なくとも、ニコラスが考えうる限りはだが――。
しかし――、
「ティナ、読書は好きか?」
「はい」
「運動は?」
「少し……、いえ、かな、り……、苦手、です」
「なれるとしたら、小説家とスポーツ選手、どちらになりたい?」
「小説家、です……」
いつもオドオドしているティナでも、この質問には即答できた。
理由は単純で、答えなんて考えるまでもなかったから。最初からわかりきっていることだったから。
が、逆を言えば、ティナのことを幼い頃から知っているニコラスからすれば、彼女の答えなんて質問する前からわかっていた、ということ。
それを踏まえて、ニコラスは続いて問う。
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