3章1話 一騎当千、そして星面波動(1)



『それ』は大陸全土に轟き天地を揺るがす一騎当千という名の蹂躙だった。


 ッッ、ゴウオオオオオオオオオオッッ!!!!! と、エルヴィスの聖剣、デュランダルは一撃で地形を変えるほどの猛威を幾度となく連続で振り続ける。

 その都度、大地は揺れて風は竜巻のごとく渦巻き――結果、何人なんびとも寄せ付けない最強エルヴィスの領域が完成した。


 激越にして超絶の聖剣使いが振るう聖剣の技にしてわざの極致のごとき一振り。

 それは巨大な古龍がその爪で凄まじく、かつ激しく地面を掻くように、成すがまま抉るべくを抉り、その剣圧により、遥か空から見下ろした惑星の表面、形状をあまりにも簡単に、呆気なく、1秒ごとに刻々と変え続けた。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!」


 エルヴィスの雄叫びが戦場の最前線の空気を震わせる。

 彼は強いとはいえただの人間のはずなのに、その咆哮はどこか戦争の神々、神話の獣すら彷彿させた。


 破壊という概念よりも攻撃的で、崩壊という事象よりもさらに圧倒的な彼の剣。

 それはまさに死霊術師よりも鮮烈に、ただひたすらに『死』という事実を敵軍に撃ち穿ち続ける。


 彼の四方八方を囲うのは幾百、幾千にも届く動く死体の軍勢、即ちグールだ。

 噛まれれば感染汚染することは必定ひつじょうで、痛覚が正常に作動していないゆえに、残った筋肉をどのように酷使しても決して戦いをやめない不死の集団である。


 筋肉に見合わない超生物的な動きをして、筋肉が縦横無尽に千切れても止まらない。関節が外れ、生物としての構造上、ありえない行動をしても痛覚がないから休まない。骨が折れても、骨折した状態のまま進行を続ける。

 敵からしたら厄介者の極みで、グール本人からしても生前の自分に対する冒涜的な戦い方を強いられている。。


 この惑星の歴史上で起きた数万、数十万にも至る戦争の中でも、最も生命の権利を侮辱する不条理にして理不尽の軍勢が――、

 ――まさに今、王国最強の一角を討ち滅ぼすべく眼前に、視力の限界まで広がりを見せた。


 だが――、

 ――それがどうした、と、エルヴィスは一笑にす。


ゼェェッッッ!!!!!」


 エルヴィスはそう叫びながらおのが聖剣を再度、強く、大陸が砕けても構わないと言わんばかりの尋常ではない腕力で振り下ろす。

 瞬間、世界は激しく鳴動する。宇宙から1つの時代を終わらせるレベルの巨大隕石が落ちてきた時のような、絶対的衝撃が戦場に轟き、そして敵兵を残酷なほど無造作に蹴散らすのはただの必然だった。


 敵に斬撃を直撃させたわけではない。

 エルヴィスはただの振動で数多の敵を埃のように吹き飛ばしたのである。


 続く刹那、エルヴィスは再度、聖剣を空振り――やはり疾風の圧力により、彼の眼前にいた動く死体の100か、200か、300は爆散しながらその身体を終わらせられた。


 それを確認するエルヴィス。次に、彼は上から下に聖剣を振り下ろすのではなく、左から右に振り回した。

 再度、鳴動。その瞬間、聖剣はついに音速の壁を超越て、誇張ではなく揺るぎなき世界の現実として、火山の噴火にも匹敵するその衝撃波は繰り返すようにまた、100か、200か、300の動く死体に暴虐の限りを撃ち与えた。


 殺戮よりも熱くて、殲滅よりも燃え滾るような『このチカラ』。

 自分自身が常勝無敗、百戦錬磨という概念そのもになったような血沸き肉躍るような感覚。


 そう――

 ――デュランダルのスキルは『一騎当千』。


 暴虐無敵、敵軍無双の概念そのものとさえ思えるような、使い手にただ純粋な暴力を与えるという、ただそれだけのモノだ。応用力ではエクスカリバーの足元にも及ばす、トリッキーな戦いではアスカロンよりも遥かに後れを取りやすい。。

 挙句、デュランダルが使い手に授ける暴力に、聖剣使いの実力が見合わなければ、衝撃で本人さえ自滅してしまう、まさに欠陥聖剣と呼んでも差し支えない聖剣である。


「だがッッ! オレにはそれぐらいで丁度いいッッッ!!!!!」


 エルヴィスは想う。

 獲物を狩る獅子のように笑う。


 授けられるチカラに実力が見合わなければ自滅する? 身体は崩壊するし、精神も破壊してしまう?

 しかもチカラに見合う肉体と精神を作るためには、その自滅すら可愛く思えるような鍛練が必要だと? そして最終的に得るモノがエクスカリバーのように応用力が高いモノでもなければ、アスカロンのようにトリッキーなモノでもない?


(笑止千万! 使い手が剣の強さ、性能に頼るのではない! 真の聖剣使いならば、聖剣の強みを自らの手で最大限に引き出してみせるものである!!!!!)


 このように、エルヴィスは完全に、完璧に、デュランダルを自らの支配下に置いた。重すぎる剣に振り回されているのではなく、ウソ偽りなく、その重すぎる剣を振りこなしていた。

 ゆえに――、


「こんな聖剣でさえ扱うオレは! まさしく! 世界一の聖剣使いに他ならない! 存分に殺しにこい、有象無象の塵芥ちりあくた共よ! 暴力という言葉さえ超越した純粋なチカラの権化を目撃した時! 敵だというのに絶望さえ忘れることを教えてやる!」


 今ここに、特務十二星座部隊の【獅子】エルヴィスが、伝説にもなりそうな英雄の頂点のように、見る者を悉くおののかせ、震え上がらせるほど清々しい破顔一笑を呈し、彼方かなた天下のどこまでも響き渡るほどに、勇猛果敢、高らかに吼える。


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