2章4話 説明、そして戦慄(2)
「だからこそ今回の迎撃において、王国側は私も含めて特務十二星座部隊に所属する【金牛】、【
「特務十二星座部隊のうち、11人が最前線に……ッ」
これはどのように捉えるべきなのだろうか。
無論、特務十二星座部隊の11人が最前線に出てくれるのならば、ロイを始めとする王国側は喜ばしい限りだ。彼らはみな一騎当千の実力を持っており、それはロイだってよく知っている。アリシアと戦った時も、フィルと戦った時も、ロイの剣は1回も、1mmも、2人には届かなかったのだ。しかも、どちらの時も2人は全力の半分も出していない。
で、だ。
今回の激突では、特務十二星座部隊の11人が出るとのことだ。だが逆を言えば、彼らが出撃しなければならないほど、魔王軍は深刻にして激烈な戦いを仕掛けてくる可能性もあるのではないかとロイは逡巡する。
「――あれ、な……っ、っ、なら、最後の1人は……?」
ロイは思考の奥から戻ってきて、今の話を聞いたならば普通に浮かんでくる謎をアリシアに訊いた。
すると、アリシアは口元を優雅に緩めてそれに答える。
「最後の1人、特務十二星座部隊の序列第1位、国王陛下より【
「なっ――、たった1人で!?」
「その結果、本来、国王陛下と姫様をお守りする役目の人員を戦場に回せますし、根本的にロイヤルガードとはそういうモノですから」
と、アリシアは上品に微笑み、今まで飲んでいなかった紅茶に口を付ける。
その一方でロイは絶句していた。
まず大前提として、序列第1位ということはエドワードの方がアリシアよりも強いということである。
それだけでも想像の
しかし、それには国王本人の許可が必要なはずだ。それで実際に国王が認めているということは、ウソ偽りなく、それだけの実力をその身1つに備えているということなのだろう。
その重圧は凄まじいはずだ。
1人でその任務に挑むということは当然、万一国王が討たれたら、その責任は全て自分に
「ということは……ボクの任務はひとまず戦闘が始まる前の比較的落ち着いた状況で、エドワード様がくるまでの場繋ぎですか? ヴィキーを相手に」
「厳密には、違います」
と、アリシアが首を横に振る。
「エドワードさんが『守る』のは姫様のその命、加えてその身体です。対して、ロイさんが『支える』のは、姫様の御心、とでも言えばいいのでしょうか?」
「ちょっと、アリシア! そう言われると恥ずかしいですわ!」
顔を耳まで真っ赤に染めるヴィクトリア。
だが、特に気にした様子もなくアリシアは続ける。
「ふふ、国王陛下のお心遣いですね。ロイさんには申し訳ないかもしれませんが、本格的な衝突が起きる前に、ご自分の娘に友達との時間を作ってあげたかったのでしょう」
(といいますか、また姫様に脱走されたら冗談ではすみません。本人には口が裂けても言えませんが、姫様の遊び相手になってあげてください)
確かに、アリシアの言っていることと、魔術で脳内に直接伝えてきたことは理解できる。
それに、あの中で七星団の団員として戦えるのはロイだけだ。矛盾した言葉だが、半強制的な志願兵に少し近い名目でこの要塞にヴィクトリアの友達を連れてくるのならば、シーリーンやアリスはいささか難しい。
「さて、それではロイさん、次の質問はありますか?」
アリシアはロイに促す。一応、かなり長くなったし重い話ではあったが、ロイの『なぜ国王と姫がツァールトクヴェレにいるか?』『この王国になにが起きようとしているのか?』という疑問には答え終わった。
ゆえに、彼女は話を進めようとしたのだろう。
「……ボク自身のことなので、一応、尋ねておきたいのですが」
「はい、なんなりと」
「ボクは今、七星団に仮入団している立場だそうですが、所属はどうなるのですか?」
「先刻、ロイさんは馬車に乗ってここまできたはずです。その時、ガクトさん、という第37騎士小隊の隊長の男性と一緒ではありませんでしたか?」
「はい、覚えています」
「そもそも第37騎士小隊の今回の任務もロイさんと同じように、距離感は違いますが姫様の近辺警護ですので、そこに配属という形なる、と、私は人事の方から説明されました」
先ほどよりもかなり落ち着いて、そして柔和な感じでアリシアはロイに説明した。
で、彼女の説明を受けたロイは少し、胸をなでおろす感じで息を吐く。
いくら聖剣使いといえども、所詮、ロイという少年はプロではない。
すでにロイは魔物を倒している、という反論も出そうだが、あれはほぼ奇跡に近い。純粋な戦闘の
「そうなんですね」
「もちろん、一国の姫を警護するのです。ですから、護衛する部隊は第37騎士小隊だけというわけではありませんが、少なくとも、ロイさんが所属するのはそこ、という感じですね」
言外にアリシアが伝えたかったことは2つだ。
1つは自分たちの第37騎士小隊以外にもヴィクトリアの護衛はいるのだから、他の騎士小隊とコミュニケーションが必要になるかもしれない、ということだ。そしてもう1つは今のうちにどこに所属するのかを教えるから、同じ小隊のメンバーと仲良くしておいた方がいい、ということである。
ロイはそこまで頭が悪いというわけではない。
良くも悪くも素直というだけであり、察しもよく、頭は平均よりも回る方だ。なので、彼はアリシアの伝えたいことを早々に
「わかりました」
「そして――」
「そして?」
どうやらこれで、アリシアが言いたいことは最後になりそうだ、と、ロイは彼女の雰囲気から察した。
事実、アリシアにとってこれが最後の伝えたいことであったし、彼女はなんとなく、少しタメを作ってからロイにそれを伝えるのだった。
「――先ほどお話した約6週間後の迎撃において、ロイさんは小隊ごと私の部下になってもらいます」
「それってまさか――っ」
「ふふっ、はい、特務十二星座部隊の【金牛】の直属の部下、ということです」
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