4章3話 お泊り、そして帰りの馬車での会話(1)



 その夜、ロイたちは至高のおもてなしを受けることになった。


 まずはディナー。


 鉄板の熱でこんがりとした音を弾かせつつ、香ばしい匂いを漂わせる肉厚な牛肉、それをナイフで切ると肉汁がジワァとこれでもかというぐらい溢れ出る。

 それを口に入れた瞬間、舌の上で蕩けるような柔らかさを極めた牛肉のせいで、ロイたちは生まれて初めてのレベルで、食事できることに感動した。


 他には、今にも身が弾けそうなぐらいプリプリの海老も、夢の中でも食べたことがないぐらい最高級のカニも、瑞々しく新鮮で旨みが凝縮された魚も。苦いのではなくもはや甘いとすら思える野菜も、味だけではなく歯応えも舌触りも涙を流しそうになるぐらい絶品な山菜も。絶妙にして完璧なバランスで味付けされた美味という概念を突き詰めるところまで突き詰めたパスタも、熱々で湯気に混じった匂いだけで満足できそうなぐらいのクリームシチューも、衣がサクサクで中はホクホクのコロッケも、ふわふわのモチモチで生地の弾力が食べる人が一番食事を楽しめるように調整されたパンも。


 おなかがいっぱいになるぐらい食べ尽くした。


 女の子だとしても、この際、体重とかお腹のぷにぷに具合とかを気にしていられるわけがない。

 今後の人生でこれよりも美味しい物を食べられるわけがない。そう断言できる。今、ここでこれらの至高の料理を食べ逃すわけにはいかないのだ。


 人やエルフたちには食欲、睡眠欲、性欲の三大欲求が存在するが……今の食事だけで、自分たちは食欲を満たすだけで幸せになれる。

 そう錯覚してしまうぐらい、8人は最高のディナーを楽しんだ。


 そして――、


「――ッッ、斬撃舞踏!」

「甘いっ!」


 食後、少しお腹を休めると、ロイは王国七星団の団員に、剣術の稽古を付けてもらえることになった。

 しかしながら、七星団の団員のほとんどはロイよりも圧倒的に強い。


 ロイしか使えない聖剣、エクスカリバーの恩恵を以って、それで初めて少しだけ優位に立てるという強さである。

 しかも一瞬だけ優位に立ったとしても、立ち回りやテクニックの差ですぐに覆されるし、なにより、相手は本物の魔族との戦いを経験しているプロだ。


 ロイはまだ魔族と戦ったことがないゆえに、いわゆる本物の戦いをしたことがなく、結局、戦闘の演習止まりだった。

 アリエルとの決闘、そのあとのレナードとの戦いで死亡寸前の戦いをしたことがあるが……自分が1つミスしたら仲間も巻き添えを喰らうかもしれない、という状況には身を置いたことがない。


 そして今まで、ロイが戦いで背負ってきたモノはいかにシーリーンやアリスが大切と言っても、率直に言えば個人でしかない。

 対して、七星団の団員が背負っているモノは国家そのものだ。


 ロイの背負ってきたモノを軽んじるわけではない。

 しかしどうしても、こうした稽古であっても剣を持つということに対する想いの熱さが違った。


   ◇ ◆ ◇ ◆


 一方で、シーリーンやアリスを始めとする女の子たちはエステを受けていた。

 ロイは自分で稽古を付けてほしいとお願いしたが、7人はヴィクトリアに誘われて一緒にエステを受けることにしたのだ。


 エステのプランには特別な魔術も組み込まれていて、肌を綺麗にして白くする魔術はもちろん、女の子として肌のやわらかさを良くする魔術や、肌をスベスベにする魔術、他には体重を減らすように促進する魔術、そして本人が希望すれば少し筋肉を付けてアスリート選手のように健康的な身体になれる魔術、なんてモノもある。


「シィはロイくんに喜んでもらえるように、肌をぷにぷにフワフワって柔らかくする魔術を重点的にお願いします♪」

「わ、私は……肌を瑞々しく、スベスベにする魔術で」


「わたしは身長を伸ばす魔術を希望するよ!」

「イヴちゃん、効果は100%保証されるわけじゃありませんからね? あっ、わたしはもうちょっと胸を大きくする方向で」


「アタシはもっと健康的な身体になりたい!」

「ワタシは……小顔にな、り、たい、かな?」

「わたくしは肌を白く、で、お願いいたします」


「わたくしはいつもどおり全部ですわ!」

「ほえ!? それってありなの!?」


 と、最後にシーリーンのツッコミがあったあと、無事にエステは始まった。

 無論、みんな全裸にシーツをかけてベッドのような台に寝転んでいる状態だし、血行促進のために室内を少し暑くしているので汗をかいているし、男子禁制の楽園がそこにはあった。


「そういえば、なんで七星団の施設なのにエステなんてあるの?」

「わたくしのお小遣いで作ってもらったんですわ!」


   ◇ ◆ ◇ ◆


 そして翌日――、


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