2章2話 観光、そして親友(2)
マリアとクリスティーナがそういう話をしている一方で、先頭のイヴとリタは今、レンガでできたアーチ状の橋の上で川を見下ろしていた。
追い付いたロイとティナも同じように橋から川を見下ろすと、そこでは色鮮やかな魚が泳いでいた。
「センパイ、あの魚って食べられるのかな!?」
リタはかまってほしくてロイの腕をグイグイ引っ張る。
当のロイはというと、リタの行動ではなく、発言に対して苦笑いをするしかない。
「あはは……食べられるとは思うけど、もうちょっと風情を楽しもうよ」
「ふっふっふっー、アタシは花よりクッキーな女の子だから!」
「リタちゃんらしいね」
「にひっ、でしょでしょ?」
ティナとは違い、リタはロイに対して恋愛感情を抱いていなかった。少なくとも、現段階では。
そもそも、リタは初恋すら未経験で、本人曰く「恋愛なんてよくわからないし~」とのこと。
だがしかし、好きか嫌いかで言えば、リタはロイのことが大好きだった。
実質初対面ではあるものの、根本的に嫌う理由が特にない。それにリタは以前噂になったロイ対ジェレミアのことを知っていたので、それで好印象は確定である。
センパイは兄貴って感じがする、と。
アタシに兄貴がいたらこんな感じなのかな、と。
そんなふうにリタはロイのことを好意的に認めているた。
まだロイと出会って1週間も経っていないのだが、彼女は彼に対して年上とはいえ友達感覚なのだろう。
その上、リタはティナのように引っ込み思案ではない。
逆に自分から積極的に友好の輪を広げていくタイプで、すでにリタがロイのことを友達と思うには、充分な時間が経っていると言えたのだ。
「あっ、センパイ! あれ、キツネじゃない!?」
「森から下りてきたのかな? 可愛いね」
「ふっ、しかしイヌには負ける! イヌは全ての動物の頂点に立つ可愛さだから!」
「リタちゃんはクーシーだからね」
「センパイはイヌ、好き?」
「まぁ、好きだよ。可愛いし」
「さっすがセンパイ!」
イヌ耳をピンと立てて、リタは尻尾をパタパタ振った。
クーシーだから当然なのだが、本当に小犬のようである。
それはさておき、リタがロイのことを年上のお兄ちゃんとして認めているのには、彼女だけではなく、彼の方にも理由が存在した。
前述ようにリタはフレンドリーな性格だが、ロイだって、リタ以外の女の子からもかなり好印象を抱かれる性格をしている。
リタにはロイを兄貴っぽく感じる理由があり――、
――ロイにはリタに兄貴っぽく感じさせる理由がある。
だからだろう。
結果としてリタはロイに、出会ってまだ少ししか経っていないが、かなり懐いていたのだった。もしかしたら、友達としてロイと相性がいい女の子はリタの可能性さえある。
「アタシにも兄貴がいたら、センパイみたいな感じだったのかな?」
「むっ、リタにお兄ちゃんは譲らないよ!」
「イヴのケチ! あ~ぁ、イヴが羨ましいなぁ」
「まぁ、リタちゃんの兄さんにはなれないけど、先輩にはなれるっていうか、事実として先輩だから、それでどう?」
「しょうがないな~、センパイは」
しょうがない、と言いつつも、リタのふわふわした尻尾は、今なお嬉しそうにパタパタ左右に振られている。
ものすごくわかりやすい性格だった。
そこで、不意にロイが(ティナちゃんが会話に混ざってこないけど……大丈夫かな?)と彼女の方に視線を向ける。
すると、ティナは橋の
しかもすでに3体も作られている。
話に混ざりづらかったからか、余った自分を紛らわせていたのだろう。
そのロイの視線に気付いたティナはビクッとして、顔を赤らめて恥じらった。
好きな先輩に子どもっぽくて、寂しくしているところを見られたのだから、彼女の性格としては当然の反応なのかもしれない。
「雪だるまとか、懐かしいなぁ」
「先輩っ……あ、っ、の……、その……、こ、れは……」
「別に恥ずかしがることじゃないよ」
「あぅ……」
まずます赤面してティナはネコ耳をペタンとさせる。
本人は羞恥心で身体が燃えそうなぐらい熱いのだろうが、ロイからすると心がホッコリ和やかになる反応だった。
「そういえば、ケットシーって寒さとか大丈夫なの? ネコは寒さが苦手そうだけど……」
「は、っ、はい! 大丈夫、です……。ご先、祖様……は、本当、に、ネ……コっぽ、くて、……中……型……犬、ぐら、い、の……大きさで、む、む、胸……に、白い、斑、点、が……あ、る黒猫、と、して、有名だっ、た……ん、です、けど……、それは神話の、話、で、今はこのとおり……、で、す」
胸という単語のあたりから、ティナの声は消え入りそうに小さくなっていく。
口下手で説明しなくちゃと必死になり、思わず恥ずかしい単語を口にしてしまったのもあるが――恋い慕っていた先輩と、こうして旅先で喋れているのだ。初心だろうとなんだろうと、緊張してしまうのは必然だろう。
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