3章9話 放課後の中庭で、ライトな修羅場に――(1)



 放課後、ロイとアリスは学院の中庭に呼び出されていた。

 シーリーンとイヴ、そしてマリア曰く、それはもう端的に、事情を説明して! とのことだった。


「いい、ロイくん?」


 シーリーンが切り出す。

 シーリーンとイヴとマリアの3人が座る横長の椅子。それのテーブルを挟んで対面の椅子にはロイとアリスが背筋を伸ばし、ロイは手をグーにして膝の上に置いて、アリスは両手を重ねて膝の上に添える形で座っていた。まるで圧迫面接のようである。


「シィはね、シィとアリスのどっちが1番目なの!? なんて訊く気はないよ? ロイくんには好きな人たちを平等に、そして他のカップルさんとは比べ物にならないほど愛してほしい」

「はい……」


「正直、シィは時間と場所と生活費が許すなら、四六時中、365日、ロイくんとイチャイチャラブラブしたいぐらいです。ロイくん好き好き大好き愛している♡ ってベッドの中で、身も心もトロトロになって、ふわふわしちゃって、デレデレになっちゃうのは、とても幸せなことだと思うし、そしてそこに混じるのがアリスなら、シィは許せます」

「はい……」


「でも、流石に少し、ロイくんにも、アリスにも、シィに話せない秘密を作られたことはショックだったな……」

「ゴメンね、シィ……」

「シィ、ゴメンなさい……」


 実情はどうあれ、周囲から見て悪いのは自分たちだ。ロイとアリスは素直にシーリーンに謝った。

 2人とも当然、罪悪感を覚えていたし、シーリーンの方だって、シュン……と元気がなさそうにしょぼくれている。


「シィは秘密を作るなって言いたいんじゃないの。秘密を作ってもいいけど、伝えるべきことはキチンと伝えてほしいって言っているの。友達グループでも同じだと思うし、大好きって気持ちがさらに強いハーレムなら、なおさら大切な前提だよね?」


「うん……ボクもそう思います」

「えぇ、私もそう思います……」


 と、ここでシーリーンはパン、と、1回だけ両手を叩いた。


「はい! じゃあ、この話はここで終わり♪ 今日からは3人で1組の恋人だよ?」


 にこっ、とシーリーンは笑ってどこか嬉しそうに宣言する。まるで天使のように可愛らしい笑顔だった。

 翻って、シーリーン本人が笑顔なのに、彼女の反応にロイとアリスはいささか戸惑ってしまう。


「シィ……許してくれるの?」

「うんっ、ロイくんもアリスも反省しているし、幸せになれるのなら、2人よりも、みんなで幸せになった方がシィは嬉しい。それに――」


「「それに?」」 と、ロイとアリスの声が重なる。


「ロイくんにも、前に少しだけ話したよね? シィのご先祖様のことを」


「うん」

「よくよく考えたら、シィたちはハーレムを前提に生まれてくる種族だもん。おばあちゃん曰く、神話の時代、シィのご先祖様は天国にやってきた男性に、お嫁さんとしてあてがわれる役目を創造主によって与えられた。その時、一体何人の女の子がお嫁さんとしてあてがわれるのかっていうと、天国の最下層の男性だとしても、最低72人なんだよね」


「ハッ!?」

「それって1人の男性が72人のハーレムを作るってこと!?」


「うん、しかも天国に住む男の人全員が」

「すごいよ……。私には想像できない世界だよ……」

「イヴちゃん、それが人間からしたら普通ですからね?」


「というわけで、たぶん遺伝なんだろうけど、実はシィ、今日、アリスもロイくんと付き合っているって聞いた時に初めて自覚したんだけど、ハーレムを許せるみたい」

「ボクが言うなって話だけど、シィにしては意外だね……」


「シィも自分でビックリしている。前まではハーレムに対して、頭では『少しどうなんだろう?』って考えていて、心では『でも、本人たちが幸せならいいのかな?』って感じていたの。でも今日、実はロイくんがハーレムを作っていて、自分もその一員だったって知ったあとは、考え方には変化がなかったけど、感じ方には『あれ? 意外と許せるなぁ』って変化があったんだよね」


「そうなんだ。でもね、シィ、ボクはハーレムなんて作っていないからね? 恋人はシィとアリスだけだからね?」

「お兄ちゃんにはそれを突っ込む権利はないよ?」

「悪いのは弟くんとアリスさんですからね?」


「……ゴメン、突っ込むのは確かに調子に乗っていたかも」


 ここでシーリーンは「コホン」と女の子らしく小さく咳払いする。


「つまり! シィは二股をかけられたことに怒っていたんじゃないの。伝えるべきことを伝えられていなかったことに怒っていたの。シィは言われれば許せるし、言われても許せない普通の女の子にだって、別の好きな人ができたら、ビンタ覚悟でそれを伝えるのが最低限の誠意だよ? ロイくんもアリスも、次からは気を付けてね?」

「うん」「はい」


 するとシーリーンは優しく微笑んだ。これでひとまず、シーリーンには許してもらえたらしい。

 となると次は――、


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