1章3話 新しい気持ちで、接することが難しくて――(1)



 ロイが王都に来訪して、そしてグーテランド七星団学院の中等教育上位に入学して、もうすぐで2ヶ月が経とうとしていた。

 王国の新学期はサファイアの月(ロイの前世でいう9月に相当する時期)から始まるため、入学から2ヶ月が経とうとしている今はトパーズの月、ロイの前世でいうところの11月に相当する時期である。


 石造りの建物に、石畳が並ぶ城下の街。


 西洋の街並みを抜けて、ロイは学院に通学する――、

 ――シーリーンとイヴとマリアの美少女3人と一緒に。


「眠い……」


 と、ロイはあくびを噛み殺しながら目をこすった。

 そして、そんな彼の片腕には、小柄なブロンドの美少女、シーリーンが抱き付いている。


 宝石を溶かして作った糸のような金髪ブロンドが、朝の光を反射してキラキラと瞬いている。

 つぶらでパッチリした黒曜石のような夜空色の瞳は、今に限って言えばなぜか眠そうだ。

 さらに言うなら、黒い瞳を際立たせるがごとく初雪のように白い肌はどこか色っぽい。


「昨日はお楽しみだったもんねぇ……ふぁ~」

「ちょ! シィ!?」


「弟くんの声で聞こえませんでしたね。イヴちゃんは聞こえましたか?」

「ううん、聞こえなかったよ?」


 実は最近、みんなが寝静まった夜になると、シーリーンがロイの自室に夜伽にきて、恋人同士2人きりで、朝日が昇るまでイチャイチャしていることが多い。

 しかも男性にとっては喜ばしいことで、シーリーンの初めての証は〈終曲なき永遠の処女ハイリッヒ・メートヒェン・ベライッヒ〉というスキルによって毎朝、日の出と共に再生するのだ。


「あっ、聖剣使いのお兄ちゃんだ!」

「カノジョさんもいる~っ!」


 と、王都に住む子どもたちが4人の横を通りすぎる。

 今、ロイが歩いている辺りでは、4人はすっかり顔を覚えられていた。


 ロイはもちろんのこと、シーリーンは見間違えることのないほどの傾国級のブロンド美少女である。

 無論、イヴとマリアも美少女で、しかもロイの妹と姉なのだ。4人1組の仲良しグループとして、関連付けられて覚えられているのだろう。


 だが決して、ここらに暮らす王都民は、ロイのことを、そして彼と仲良くしている3人のことを、変に持ち上げて、チヤホヤして有名にしているのではない。

 自然体な接し方で、フレンドリーに挨拶などを交わし、緩やかに顔馴染みになっていったのだ。


(そういえば、家族だったから特別意識していなかったけど、シィだけじゃなくて、イヴと姉さんも美少女って思われているんだよね)


 姉妹揃って夜空色の髪を、イヴは幼いツインテールにして、マリアはお姫様カットのロングストレートにしている。どちらも髪はサラサラで、女の子のいい匂いがした。

 2人の赤い瞳はルビーをはめ込んだように綺麗で、イヴもマリアも、遺伝のせいなのか、パッチリした二重だった。


 きめ細やかな肌に、普通の女の子からも憧れられるような、お人形のように小さな顔。

 お姫様のようなアイドル的な可愛さ、美しさではなく、親しみやすくて誰にでも手が届きやすい可愛さ、美しさだった。


「――ねぇ、イヴ、姉さん」

「ぅん?」

「はい?」


「2人って、異性に告白されたことってある?」

「あるけどお断りしたよ! わたしはお兄ちゃん一筋だもん」

「わたしもですね。申し訳ないと思うけど、弟くんと比べたら、どんな男の子も理想から遠すぎるんですよね」


「理想? ちなみに、2人の理想の男の子は?」

「お兄ちゃんだよ!」

「ふふ、弟くんですね♪」


 ロイは自分のことを、軽度とはいえシスコンと自覚していたが、イヴとマリアは、それ以上にブラコンだったようだ。

 イヴは慎ましやかな胸を張って、自信満々に宣言して、マリアは頬の手を当てながら、照れてはにかみながら宣言する。


「ちなみに、シィの理想もロイくんだから♡」


 臆面もなくシーリーンは、ロイの腕に抱き付く力を強くしながら言う。

 胸がくっ付いているが、例のごとく、当たっているのではない。当てているのだ。


「まぁ、シーリーンさんからしたら、弟くんは本当に白馬の王子様ですからね」

「少しだけシーリーンさんが羨ましいよぉ……」


 このようなやり取りの数分後、ロイたちは学院の門に到着する。

 王国では言わずと知れた、王立グーテランド七星団学院だ。


 剣の道を極めるにしても、魔術の道を究めるにしても、最高水準の教育を受けられる、王国最高の教育機関である。

 グーテランド七星団学院は、長い歴史の中で、多くのキングダムセイバーやロイヤルガード、オーバーメイジやカーディナルを輩出した驚異的な実績を持っている。


 竜が攻めてきても問題ないぐらい堅牢無比けんろうむひな城のごとき学舎。広大で緑豊かな敷地。この時代、この文明において、最先端にして最高級の設備が揃っている特別棟。静謐で格式高く、建物そのものが芸術作品のような図書館と礼拝堂と講堂。


 そして、今、ロイたちが立っている厳かで、それそのものが存在感を威風堂々と主張するような学院の門。

 その学院の敷地ギリギリのところで、ロイはシーリーンに確認する。


「シィ、今日も訊くけど、大丈夫?」

「うんっ、大丈夫だよ」


 言うと、シーリーンは豪奢な西洋風の門をくぐり、学院の敷地内に入った。


 まだ始業の鐘が鳴るまで時間があるため、つまり遅刻になるまで時間があるため、多くの学生は余裕を持って登校してきている。一番学生が登校してくる時間帯。そのように周りに他人がいる中で、シーリーンは不登校児なのに、無事、登校できた。


「ロイくん、褒めて褒めて?」

「しょうがないなぁ」


 だが満更でもない様子で、ロイはシーリーンのやわらかなブロンドを撫でる。さらさらで、指が髪に絡まるなんてありえない。女の子の髪を撫でると気持ちいいとよく言うが、精神的な理由でだけではなく、身体的にも、指の表面が気持ちよかった。


 心としても好きな女の子の髪を撫でて満たされるし、身体、指としても快い。


「えへへ~」


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