ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
1章8話 夕焼け空の下で、王都からの使者と――(1)
1章8話 夕焼け空の下で、王都からの使者と――(1)
ロイが暮らす村から北東に伸びる馬車道。
そこを1台の馬車が走っていた。
毛並みが美しい白馬に、
豪奢にして
そして極めつけは――、
12人の隊員がそれぞれ12の星座の名前を冠した称号を国王から直々に与えられた『特務十二星座部隊』。
馬車の外装には時計を一周する数字のように、その部隊の象徴たる12星座を表す12の
馬車の中にいたのは一人の男性。
彼は馬の手綱を握る御者の男に話しかける。
「あとどれぐらいだ?」
「あと2時間程度で到着する予定です」
聞くと、馬車の中にいた男性は改めて国から与えられた資料の紙を読む。
「ロイ・モルゲンロート、か――。資料によると、エクスカリバーを引き抜いただけではなく、国王陛下が認めたゴスペルホルダーらしいな」
まだロイがエクスカリバーを引き抜いて、修学旅行から帰還して7日しか経っていない。だというのに、この特務十二星座部隊の1人である自分が足を運ぶことになった。
王国の上層部の意見が本当に珍しく1つにまとまったからであって、本来、たった1人の少年のために、たった7日で特務十二星座部隊の一員が動くための許可を得るのは、異例中の異例。
「どんなヤツか、楽しみだな」
◇ ◆ ◇ ◆
村の入り口に先ほどの馬車が着いた。
村人は何事かと身構えるも、馬車に刻まれていた紋章と、馬車から下りてきた男のマントに描かれていた紋章を視界に入れた刹那、大人たちは全員、揃いも揃って
「エルヴィス様、ロイ少年はこの時間、剣術の稽古をしているようです。恐らく、村の外れに
「わかった。お前はここで待っていろ。オレ1人で充分だ」
「――御意」
御者の男性もあとに続くように馬車から下りて、やはり片膝を付いてエルヴィスという男に進言する。
エルヴィスは御者の男に待機しているように命令すると、村の中に入り、威風堂々と進んでいった。
そして数分後、ロイとエルヴィスは世界の運命を変える出会いをする。
琥珀色に染まる空。
夕日が煌めき、世界に優しいオレンジ色の光が降り差した。
近くにあった一面、
そしていつもより高く感じる空では、夕日の色に染まった雲がはるか遠くに流れていった。
鼻孔をくすぐる、風に乗って流れてきた麦の匂い。
麦畑が風に吹かれて、ザアザアと響くやたら感傷的な音。
どこか寂し気な夏の終わりの
翻り、当のロイは未だ彼の存在に気付かず、夢中に剣を振るっている。
2人の間に存在するその空間。
そこはまるで、世界の終わりを連想させるような黄昏に染まった雰囲気と、同時に世界を始めからやり直すような神々しい空気に包まれていた。
「ロイ・モルゲンロートはいるか?」
「? はいっ、ボクがロイですけど……」
ロイは剣を振るうのを中断して、エルヴィスに近づいて見上げる。
雄の獅子のたてがみを彷彿させるような、力強いオレンジが混じったブラウンのオールバック。
迫力と優しさが込められている、しっかりとした意志を宿す碧《みどり》の双眸。
引き締まった顔立ちに、整った高い
身長は180cm以上あって、肩幅は広く、胸板は厚く、余分な肉がない筋肉質な身体は、まさにロイが目指している『最強』という存在を具象化したかのようだった。
ゴツゴツしい荒れて、乾いて、だからこそ
剛腕にして剛脚。その腕も、その脚も、喩えるなら大木の幹のようである。
「オレは王国七星団、特務十二星座部隊に所属しているキングダムセイバー。序列第5位で、【獅子】の称号を国王陛下より
「――――ッッ」
いくら田舎者のロイだって知っている。
王国の中で比類なき強さを持ち、戦争にて特筆に値する功績を挙げて、
王国の民が大雑把に約7000万人いたとしても、12人しか入隊できない、王国最強にして最優の部隊だ。
そしてキングダムセイバーは、最難関の国家試験に合格しないとなれない、騎士の頂点。
まず、騎士のクラスはナイトから始まる。
その次に、才能がある者、あるいは努力した者の一部がロードナイトになれる。
その後、さらに才能と努力の2つを兼ね備えた人がルーンナイトになれて、そのうちの5%しかなれないと言われているのがクルセイダーだ。
最後に、その中から同時期に、5人や6人の逸材しかなれないと言われているのがキングダムセイバーである。
ロイが歓喜とも畏怖とも区別が付かないような震えを起こしながら、片膝を付き首を垂れようとすると――、
「膝は付かなくてもいい」
「えっ?」
「今日は、こちらが少年にお願いしたいことがあり訪れたのだ。立場は対等、否、こちらがお願いする側である分、オレの方が立場は低い。相手が誰であろうと、頼む方が礼儀を忘れないのが社会の理想だ。自明だろう?」
「で、ですが……」
「ふむ、少年が膝を付き、首を垂れるなら、オレはそれよりも頭を下げなくてはいけなくなる。なら土下座しかないな。やむを得ない」
「えぇ!?」
「フッ、なに、流石に冗談だ」
「で、ですよね……」
「だが、こうでも言わないと少年は顔を見せてくれないし、緊張も解けんだろう?」
「うぐ……」
「基本的に、オレは相手と目をあわせて語りたい性分なんだ。悪いが付き合ってくれ」
と、ここで、
「さて、今ここに、ロイ・モルゲンロートの家族はいるか?」
「は、はいぃ!」「ここにいます!」
この日、たまたまロイの稽古を見に来ていたロイの両親と、妹のイヴは、エルヴィスの前で跪いた。
イヴに関して言えば、両親に促される形だったが。
「少年に、キチンと親御さんの前でお願いしたいことがある」
「何でございましょうか?」
「王都の中等教育機関に入学する気はないか?」
ロイはもちろん、彼の両親も、成り行きを見守るために、近くで跪いていた大人たちも。
ここにいたエルヴィス以外の全員が、その発言に身震いした。
特務十二星座部隊の一員が――、
現在、王国に5人しかいないキングダムセイバーが――、
――自分たちの村の少年を、直々に王都に勧誘している。
少数ではあるが、人によっては涙さえ流し始めていた。
「王都の……学校、ですか?」
「そうだ。具体的には王立グーテランド七星団学院だ」
「なっ……」
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