第47話ゴーレムとはガードドローンの事

ここにも案内板が貼ってあるので助かる。

どうせならもっと親切な物が欲しかったが。


どうやらここは兵舎のようなエリアで、四隅に出入口が有り、両サイドに通った通路の内側に部屋が並んでいる構造のようだ。

さらに中央の部屋には上に続く階段が描かれている。


便宜上功とアーネスが入って来た入り口を南西口とすると、南東、北東、北西にそれぞれ出入口が有り、更に中央階段という造りだ。

分岐は西側通路と東側通路を繋ぐように何本かある。

分かり易い造りだ。


試しにそっと端のドアを開けてみると、中は倉庫のような造りになっていた。


入って両側の壁に棚が作り付けられており、中央には槍等の架台が据えてある。

今は殆ど何も残って無いが、有っても経年劣化で使用に耐えない物ばかりだ。


だが、この部屋で一番目に付くのは、正面の壁にある。


壁には無数の窪みアルコーブがあり、そいつは左から二番目に鎮座していた。


「アイツだ。上の扉へこましたの」


咄嗟にアーネスをカバー出来る位置に入り、シールドを展開する。


まるで仏像のように壁の窪みアルコーブに蹲っている。


それは先程上で見かけたロックマンだった。


「何あれ、壊れてんじゃないの?」


そう、アーネスの言う通り、それは大きく損傷しているようだ。


胸部の装甲は大きく陥没し、左肩は胴体から外れそうになっている。


「ゴーレムね!」


アーネスが目をキラキラさせている所を見ると、いいお金になるようだ。


他に敵影は無し、功はシールドを消してゴーレムなる物に近寄った。


「ゴーレム?」


「魔術的自律型ドローンの事よ。あ〜、やっぱりゴーレムコアは壊れちゃってるわね〜。無事だったら最高だったけど、贅沢言っちゃダメよね」


「何か知らんが、それが無事だったら俺たちが無事では済まなくなる気がするぞ」


「その時はその時よ。

状況から見て、何かと交戦して半壊された後、何とかここまで帰って来れたけど、修復出来ずに力尽きたってとこかしらね。

ゴーレムは、まだどこの企業の錬金術師や魔道科学者達も再現出来てない技術らしいから、部品一つでも高額で買い取ってくれるのよ」


功には何の事か分からないが、要するにオーパーツ的なロボットみたいな物らしい。

分かるのは、上で見た奴と種類が違うという事だけだ。


「上の奴と仕様が違うな。上の奴は両腕が大砲になってた。コイツは剣みたいだな」


サイズは変わらないようだが、崩れるように倒れているゴーレムは両手の先が斬撃を飛ばして来る猿のように、片刃の曲刀になっていた。

左手側は根元近くから折れているが、右は健在である。


緩くS字を描く刃渡り50cm程の細身の曲刀で、刀身はザラついた艶の無い黯い鋼色だ。

強いて言うならエジプトの剣、ケペシュに似ている。


恐ろしく鋭利で、普通に斬られても痛そうだが、どうせ伸びるだの飛んでいくだのというロクでもないギミックが付いていたに違いない。

相手をしなくて済んでホッとする。


その辺に転がっている古びて折れた槍も、何だかよく分からない何かも、見た目通りのモノでは無いだろう。

技術と文化レベルがちぐはぐ過ぎる。あるいはこの建物が有った世界も、ロストチャイルドのような、混沌とした世界だったのかもしれない。


「やっぱり上の奴は外回り要員のガードドローンで、コイツは屋内要員なんじゃないの?屋内であんな大砲ぶっ放されたら堪んないしね」


「屋外でも堪らんけどな」


耐爆扉の惨状を思い出すと震えが来る。


「さあ、さっさと回収して次行ってみよう!」


「いや、まずドクに合流した事連絡しとく」


「オッケー」


功はスマホの音声コマンドでドクに繋いで貰う。

その間アーネスは色々と部屋を物色している。


「あ、ドク、今通話いける?」


『あ、あぁ、何とか大丈夫だ。ちょっとさっきまでヤバかったんだが、何とか皆のおかげで乗り切れた』


ドクは2コールですぐ通話に出たが、随分と疲れたような声をしている。


「何かあったのか?」


『いや、もう大丈夫なんだが・・・ちょっとキングオウルに見つかってな、ゴムボートごと拐われたんだがよ、ワイバーンが横槍入れて来て空中戦始めやがってな、その隙に何とか逃げられた。皆も無事で今そっちに向かってるとこだ』


《何だその怪獣大戦争は!》


何やら想像もつかない命がけの大冒険をしているようだ。あっちはあっちで大変そうである。


「いや、良く生きてんな!まあ、取り敢えず無事にアーネスとは合流出来たから連絡したんだけどさ」


『マジか!そりゃ良かった!こっちも悪い事ばかりじゃ無いんだ。キングオウルの奴に空を運ばれてな、大分ショートカット出来たんだ。もう、すぐそこだ。城砦も見えてる。怪我の功名って奴だな!』


《ハリウッドばりの冒険してんな!》


異世界はスケールが違う。正直ビビる。


「と、とにかく気を付けてくれよ。あんまり無理すんなよ」


『ああ、そっちもな』


「あ、それから今から壊れてたゴーレム?それをパーティストレージに入れとくから出来たら処理してくれってさ」


『なんだ〜っ!ゴーレム〜ッ⁉︎』


ゴーレムな、ゴーレムコアってのも壊れてるらしいけど」


『そっちも大変そうだな!まあ、とにかく早く山から降りて来てくれ』


「了解、これから脱出するだ。また、後でな」


通話を切ると、ゴーレムを収納する。


「さて、アーネス、もういいだろ。次も次もってキリが無い。ここらが潮時だ。余計な冒険してないで撤収するぞ。皆も命からがら迎えに来てくれてんだからさ」


ドクや皆の頑張りに応えなくてはならない。ここらでアーネスにストップをかけるのも功の責任だろう。


「ええ〜、やっぱり?ちょっとくらいダメ?」


予想通りアーネスも本当は分かっているのだ。

実はこう見えて案外アーネスは聞き分けが良い。グズって見せるのはポーズだという事も分かってきた。

頭は悪くないのだ。性格がアレなだけで。


「ダメだ。これ以上リスクは冒せない。まだ生き残ってるゴーレム?も居るかも知れない。手に負えない魔物も出て来るかもしれない。何より上のアイツの攻撃は俺のシールドじゃ一発受けただけで消えちまう」


それに功の見立てでは、このゴーレムの装甲を貫くには余程の至近距離で、ペネトレートとエクステンションを乗せたサボットスラグでないと無理だ。


アーネスのフルメタルジャケットでも無理だろう。


装甲は硬いだけでは無く、避弾経始に基づく曲線装甲を持っており、余程当たり所が良くないと弾を逸らされてしまうだろう。

功が斜めにヘキサシールドを展開するのと同じ理論だ。


これを破壊するにはガイストの15mm硬芯徹甲弾か、ドクの12mmが必要だろう。


功は説得しながら、パーティストレージから缶型HEハンドグレネードを取り出し、ポーチにしまう。

アーネスにはパンツァーファウストと成型炸薬弾を2発。

これくらい無いとアイツには通用しないだろう。


「はぁ、しょうがないわね。ま、いいわ、予定通り稼げたからね」


《予定通り?予定通りなのか?コイツの中ではどういう予定だったんだ?》


気にしていてもしょうがない。これがアーネスという生き物なのだ。


とにかく気合いを入れ直し、入って来た扉まで戻ると、脇に貼ってある案内板の前で考え込む。


《俺が落ちた部屋がこっちの方向で、距離はこれぐらい。そこからこの方向に来て、この通路がこっち側にこれだけ延びてるから・・・》


どう考えてもこの建物の全体像が分からないのだから、予想の立てようが無い。

出来れば侵入して来た経路から脱出したいが、それも難しいだろう。


取り敢えず功は北西の出入口に向かうことにした。

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