3日目

 8月3日、蝉の鳴き声で目が覚める。隣で寝ていたエリもすでに起きていたのか上半身を起き上がらせていた。しかし、なぜかこちらにはまったく見向きもせずにある一点のみを見つめているようだった。自分もつい彼女が見つめる方向に目線を動かす。

 視線の先には彼女の足。しかしその足の指先、親指から中指までがなにかにぶつけたかのように赤黒く変色していた。


「…そっか、もうそろそろきみにも話さないといけないね。私の病ってどんどん体が腐っていっちゃうんだってさ。最初は指の先程度なんだけど、そのうちそれが全身に広がって、最後には死んじゃうんだって」


 あまりのことに僕は言葉を失う。体が腐る?それが全身に?


「無理もないよね。いきなりそんなこと言われて理解しろってほうが無理な話だよ。…だからね私この部屋から出ていこうと思うの」


 そう言うと彼女は近くにあったバッグを手に取り、立ち上がる。こうなることを予期してか彼女は荷物をすでにまとめていたようだった。だめだ、彼女を行かせるわけにはいかない。僕は彼女の腕をつかむ。


「止めなくていいよ。それにきみだってそんな私を見たくないでしょ?私自身だって大好きなきみにそんな姿を見られたくないよ」


 エリ言葉は震えていた。言葉だけではない、こちらに顔を見せてはいないが泣くのをこらえているように見える。自分の体が腐っていく、そんな事実を突きつけられたら誰かに相談でもしない限り、おかしくなってしまうだろう。ならばなぜ彼女は僕にそのことを打ち明けなかったのか。そんなの簡単だ、僕に心配をかけたくなかったからだ。

 自分の鈍感さに嫌気が指す。病人に気まで遣わせ、どんな言葉をかければいいかもわからなくなっている自分自身に。それでもここで彼女を行かせてしまったら、きっと自分は死ぬほど後悔するだろう。


「…本当にいいの?今は落ち着いているけれど、どうなるかわからない。泣きわめくかもしれない。きみに理不尽に当たり散らすかもしれない。見た目どころか中身まで醜くなるかもしれない。そんな私といたってきっと楽しくなんてないよ」


 知ったことか。もう僕は決めたのだ。彼女に当たり散らされても、僕のことがわからなくなっても、醜い姿となってもつねに傍にい続けてやろうって。それが僕にできる彼女への恩返しなのだ。


「…その顔じゃあ言っても無駄みたいだね。嘘だったら死んでから化けて出てやるんだからそのつもりでいてね」


 彼女は皮肉を込めた冗談を言って笑う。気が付くと僕は彼女を抱きしめていた。きっと想像していることよりも過酷なことになるだろう。でもきっと大丈夫だ。大切な人と一緒だったらきっと乗り越えることができるだろう。二度とこの手を放すものか。胸の中にいる彼女を見つめ、僕はそう誓った。

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ぼくと彼女の夏休み にゃんごろげ @nilyanngoroge

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