第120話 集団戦/未柳の決断

 お笑い生徒会長・未柳は、伊達メガネを揺らしながら、マウスとキーボードを操作した。


 ファイターのHPは、集団戦が始まる直前に削れた。


 本来なら、もっと安全策を考えて、敵に近づく必要があった。


 だが未柳は、逆をついた。


 敵は、こう考えると思ったのだ。HPの減ったファイターなら、前に出てこないだろう、と。


 その目論見は、成功した。


 花崎高校の対応は、ワンテンポ遅れた。集団戦の意思疎通に乱れが生じて、各キャラクターの位置の修正が間に合っていないのだ。


「敵の意表をつけた、勉強の苦手な、このあたしが……!」


 未柳は、自画自賛しながら、ファイターの奥義を発動した。


《バニシングソウル》


 一定時間だけ、移動速度が上昇して、HPが自動回復していく。


 便利なようで、器用貧乏なスキルだった。


 攻撃力や防御力は上昇しないし、敵にダメージを与えるわけではないため、使いどころが難しいのだ。


 だが、HPの減ったファイターが、同じくHPの減ったソルジャーを落とすためなら、有用であった。


(どうせあたしは、この集団戦で足手まといになる。だったら、敵の要のプレイヤーを落としちゃえば、あとは仲間たちを信じればいい)


 ファイターの《バニシングソウル》が発動。


 全身が真っ赤に燃えた。移動スピードが倍になって、ただ歩くだけで茜色の残像が生まれる。


 傷ついていた肉体に、緑色の粉が付着して、少しずつHPが回復していく。


 かなり制御の難しいスキルだ。

 

 さすがにバトルアーティストほど、ピーキーで難度の高いキャラではないが、それでも主観視点のゲームで、移動速度が倍になるのは、動体視力が求められる。


 その点、未柳は、ずっと運動部だった人間だ。


 バレーボール部時代に培った、動体視力。


 スポーツの盛んな学校に入学して、しかし一軍に残ることのできなかった経験値。


 それをいま、爆発させるのだ。


「あたしだってね、たまには好判断するのよ!」


 未柳のファイターは、魔女のリーダー・吉奈のソルジャーに、肉薄した。

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