第106話 騙し合いの化かし合い
東源高校は、花崎高校の罠を逆手に取ることにした。
狙いは、二段構えである。
一段目。俊介が囮となり、罠に引っかかったフリをしながら、敵の注意を引きつける。その間に、仲間たちが敵の側面から突撃して、ポーク構成の懐に飛び込む。
二段目。あえて罠に近づくことで、花崎高校が罠を展開している時間を引き延ばす。その間に、仲間たちは金鉱を掘りまくって、さらにゴールドの差を広げる。
すでに仲間たちは、いつでも花崎高校の側面を突けるように、ステージの東側に集まって、金鉱を掘っていた。
もし花崎高校が、このままズルズルと罠を張り続けるなら、東源高校とのゴールド差はさらに広がることになる。
(あとは俺の演技力次第だな)
二段構えの作戦を成立させるためには、俊介が罠に引っかかりそうで引っかからないポジションで焦らす必要があった。
俊介の格闘家は、まるで敵の罠に気づいていないフリをしながら、敵陣に踏み込んだ。
定番の動きである索敵をしながら、視界管理用の歩兵を置こうとした。
ふと違和感に気づいた。
敵の罠に近づいたはずなのに、敵の足音に変化がない。
もし孤立した格闘家を狙っているなら、すーっと渦が狭まるように敵の足音が近づいてくるはずなのに。
(なんかあるな……なんだ?)
耳を澄ませながら周囲を警戒していると、遠くから物音が連なった。
アサルトライフルの発砲音と、弓矢の飛び交う音。
試合展開の管理ログに、東源高校の歩兵が撃破されたメッセージが連続していく。
すぐ近くに待機させておいた、視界管理用の歩兵たちを、すべて撃破されてしまったのだ。
「しまった……!」
俊介は、ようやく花崎のカウンタープレイに気づいた。
あちらも二段構えの作戦だったのだ。
一段目。もし俊介が罠に気づいていないなら、そのまま孤立したところを叩く。
二段目。俊介が罠に気づいていたなら、俊介を泳がせておいて、その間に視界管理用の歩兵をロングレンジ攻撃で破壊する。
いくら俊介の反応速度が化け物じみていても、歩兵にまで同じ動きをさせられない。
花崎高校は、あえてリスクを取ることで、ポーク構成の強みを綺麗に活かしたのである。
その結果、東源高校は、せっかく築いたゴールドの有利を失ってしまった。
なぜなら歩兵は、ゴールドを消費して生み出すものだから、なにかの仕事を果たすために破壊されてしまうと、そのまま丸ごと損になってしまうのだ。
だからといって、焦って有利を取り返そうとすれば、それこそ俊介は孤立してしまい、包囲殲滅の対象となるだろう。
(逆の逆を突かれたな。俺の安直な頭の回転より、吉奈さんの丁寧な作戦のほうが効果的だった……だが、これもいい経験だと思ったほうがいい。もし一度の失敗で萎縮してしまったら、新しいことへのチャレンジなんて絶対に無理だ)
俊介は、前向きな気持ちで敵陣から撤退しながら、最低限の仕事として、花崎高校の視界管理用の歩兵を破壊した。
少なくともこれで、視界管理の有利はキープしたままになる。
いくらゴールドの有利は帳消しになってしまっても、まだ負けたわけではないのだ。
ほんの少しだけ東源高校有利のまま、試合は中盤に差し掛かろうとしていた。
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