第86話 集団戦/《コンセントレーションナイン》発動
kirishunこと桐岡俊介は、魔女のリーダー・吉奈に肉薄した。
グラディエーターの長所である、一対一に特化した性能を最大限に活かすために、接近方法を工夫した。
俊介のグラディエーターと吉奈のハンターが、他の選手や歩兵たちから孤立するように、接触する角度を計算したのだ。
無論、すでに集団戦が始まっているから、純然たる一騎打ちにはなりえない。
だが、ほんの短時間であろうとも、実質の一騎打ちに引き込めたなら、東源高校にもわずかなチャンスが生まれたことになる。
(俺が吉奈先輩をどうにかしないと、一本目は負けが確定だ)
すでに東源高校の本拠地の耐久力は、三分の一を切っていた。
もちろん尾長を始めとした、仲間のプレイヤーキャラたちは、ひたすら花崎高校を迎撃していた。
残っているゴールドを、すべて新規のワニ型歩兵の生産に回していた。
たしかに、少しずつではあるものの、敵の歩兵の数は減り始めていた。
だが、このままやれば、絶対に負ける。
吉奈の高度な頭脳は、味方の損害が発生することを前提に、東源高校の本拠地を割り切れると判断していた。
東源高校の部長である尾長だって、ダメージ計算をやった結果、たとえ敵に大きな損害を与えたとしても、自軍の本拠地を守りきれないと判断したから、一時的に絶望したのだ。
だが俊介は、まだ諦めていなかった。敵の指揮官である吉奈を潰すことで、花崎高校の足並みを乱せばいい。
魔女たちに『もし、このまま東源の本拠地を攻撃し続けたら、自分たちが全滅してしまうかもしれない』と脳裏に考えをよぎらせるだけでいい。
そうすれば、吉奈以外の選手たちは、攻撃の対象を、尾長や加奈子に切り替えるかもしれない。たとえほんの一瞬の切り替えだったとしても、そのほんの一瞬の時間を稼げることで、逆転勝利の可能性がゼロではなくなる。
だが、俊介が吉奈を倒せないなら、その一瞬の時間ですら稼げない。
「今度こそ、花崎に勝ちますよ、吉奈先輩」
ついに俊介のグラディエーターが、剣による一撃目を、吉奈のハンターに叩き込んだ。
ごっそりとHPゲージが削れた。だが吉奈のハンターは、すぐ目の前にいる俊介のグラディエーターを無視した。
『今回も、花崎が勝つに決まってるわ、kirishun』
吉奈のハンターは、たくみにバックステップしながら、きっちりと本拠地に矢を撃ちこんでいた。
彼女は、たとえ俊介の攻撃を受けようとも、動揺しなかったのだ。
だが俊介も諦めていなかった。さらにもう一発、吉奈に打撃を与える。
彼女のHPゲージは、半分を切った。あと二回攻撃を与えれば、ダウンする計算だ。
それでも吉奈は、本拠地攻撃をひたすら続けた。俊介に反撃しようなんて考えなかった。
判断が完璧だった。
東源高校の本拠地は、耐久力のゲージが、あと数センチしか残っていなかった。この調子だと、あと五秒か、六秒ぐらいで、壊れてしまうだろう。
いくらBO3の試合とはいえ、一本目を落とすのは、絶対に避けないといけない。
選手のメンタルは、第三者が想像している以上にデリケートだ。
負けたほうは余裕を失うし、勝ったほうは余裕が出てくる。
余裕を失えば、当然のようにメンタルが不安定になって、ミスする確率が跳ね上がる。
(やっぱり俺がどうにかしないと……!)
俊介は決断した。BO3の一本目から《コンセントレーションナイン》を使おうと。
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