第85話 集団戦開始/花崎高校の狙い

 花崎高校は、東源高校の本拠地を、攻撃していた。


「他のすべてを無視よ。この効率で叩き続ければ、敵プレイヤーの迎撃が間に合っても、こっちのHPが空になるより先に、東源高校の本拠地が割れるわ」


 魔女のリーダーである吉奈は、仲間たちを鼓舞した。もはや敵に会話を聞かれようと気にしなかった。


 どちらのチームの生徒たちも、あとは東源高校の本拠地が先に割れるか、それとも花崎高校のメンバーたちが全滅するか、の戦いになったことを理解しているからだ。


 ちなみに東源高校の迎撃部隊だが、ほんの数秒前に、本拠地付近に集まってきた。


 花崎高校が警戒しなければならないのは、範囲攻撃スキルを持った敵と、DPSダメージが多い敵と、kirishunこと桐岡俊介の個人技であった。


 ただし、今回の東源高校のキャラクター構成だと、純粋な意味での範囲攻撃スキルを持った職業がいない。いつもなら尾長がマジシャンをやっているはずだが、海賊島では遭遇戦を優先しているため、構成から外してあるわけだ。


 だからDPSダメージを出せる加奈子のハンターと、俊介のグラディエーターを警戒することが、肝要だった。


 なお未柳のサムライは、事前に落としてあるため、花崎高校は人数優位で集団戦を始められる。


 だが吉奈は、じりじりとプレッシャーを感じていた。


 いくら、他の敵を無視して、ひたすら本拠地を叩いた方が効率的だとわかっていても、敵に攻撃されたら反撃したくなるのが人情だ。


 吉奈みたいに、ダメージ計算ができる選手ですら、そうなのだから、ダメージ計算ができないチームメイトは、もっとプレッシャーを感じているはずだった。


 だから、もう一度声をかけた。


「いいわね、なにかトラブルが起きるまでは、東源高校の攻撃は無視して、ひたすら本拠地を狙うのよ」


 と、声をかけたとき、加奈子のハンターの矢が、吉奈のハンターに突き刺さった。HPゲージが、ごりっと削れて、危機感を煽られる。


(あと数回攻撃されたら、ダウンしてしまう。だがその数回攻撃される前に、こちらが本拠地を割れるはずだ)

 

 まるで自分自身を説得するように、心の中でひたすら同じフレーズを繰り返した。


 メンタルの安定性すら含んだ攻防。数秒単位での駆け引き。ダメージ計算の応酬。


 そういうゲームの要素に、花崎高校での立場が重なっていく。


 魔女のリーダー。学校に居場所がない子たちのまとめ役。独自の路線を突き進むため、なにかと恐れられている。


 吉奈は、そんな自分が好きだった。


 創部当初みたいに、たったひとりで、星占いを楽しむだけの部活動でもよかったのかもしれない。だが、傷ついていく子たちを、放っておけなかった。


 そのかいあって、部活動の内部に友達もできたし、対戦相手である加奈子とも友達になれた。


 たとえ志を優先して、空気を無視したとしても、友達は見つかるものだ。


 きっとこのフレーズこそが、吉奈の生み出した星占い部の本質だろう。


 だからこそ、学校を卒業したあとも、志が残るように、この試合に爪痕を残す必要があった。


 そう、爪痕の象徴として、ふさわしい相手が突っ込んできたのだ。kirishunとかいう天才が。


『吉奈さんを倒さないと、花崎の連携を潰せそうになかったので』


 おそらくだが、桐岡俊介は、ちゃんとした計算で吉奈を狙おうとしたわけではない。


 だが吉奈を潰すことで、他の選手たちのメンタルが崩れて、ダメージリソースを本拠地攻撃から敵プレイヤーへの反撃に割いてしまう、とゲーム本能で理解していた。


 やっぱりこの選手は、規格外なんだろう。ゲーム越しに接しているはずなのに、ただ接近されるだけで、雷をまとった悪魔が牙をむいているように感じてしまう。


 吉奈だけではなく、花崎高校のチームメイトたちも、黒々としたプレッシャーを感じて、ごくりと息をのんでいた。


 俊介のプレイヤーキャラの上部に表示されている『kirishun』の表示を見るだけで、『元LMのアタッカーに、普通の女子高生が、本当に勝てるのか?』と迷いが生じてしまう。


 だが吉奈は思うわけだ。もし、なんの才能もない女子高生が、天才に一矢報いることができたら、それは希望になるのではないだろうかと。


 天才とて人間だ。絶対に弱点はある。


 だから吉奈は、自分のやり方で、俊介を倒すことにした。

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