第82話 美桜の考察

 amamiこと天坂美桜は、ずっと舞台袖から試合を観察していた。


 ちょうど四つ目の宝箱が出現したところだった。


 東源高校の動きから察するところ、尾長の作戦は『もし四つ目の宝箱が、花崎高校の陣地内に出現した場合、さっぱり諦める』ことだろう。


 というか、ゴールド配分的に諦めるしかない。もし無理をしてでも、敵の陣地まで奪いにいけば、手酷い反撃を受けて壊滅する可能性が圧倒的に高いからだ。


 だが、花崎高校側だって、尾長のリスク判断を完全に読んでいるだろう。


 だからこそ、東源高校側に必要だったのは『リスク判断が相手に読まれた場合、その先を考えて、どんな対抗策を打つか』だった。


 いまやっているような、リスク判断を読まれたことを前提に、安全策でお茶を濁すことではなかったのである。


 だが、東源高校の選手たちを責めるのは酷だろう。


 なぜなら、リスク判断を相手に読まれた場合の適切な対抗策は、プロチームのやれる判断であって、アマチュアチームのやれることではないからだ。


 そう、アマチュアチームである東源高校は、花崎高校のアクションに対して、反応が遅れてしまった。


 いつのまにか、花崎高校の全プレイヤーキャラと、すべての歩兵が、東源高校の陣地内に侵入していたのだ。


 無論、偵察ではないし、けん制でもない。


 花崎高校の本拠地を守るはずの歩兵ですら、全身全霊で突撃していたのだから。


 だが、東源高校のメンバーは、まだ気づいていなかった。


 優れた軍師である尾長ですら、魔女のリーダーである吉奈の頭の回転についていけなかった。


 この会場において、吉奈の作戦に食いつけるのは、美桜だけだったのだ。


 だから美桜は、たとえ声が届かないとわかっていても、つい叫んでしまった。


「俊介、この愚か者! さっさと動け! 魔女たちの狙いは本拠地破壊だ!」


 そう、花崎高校の狙いは、プレイヤーのせん滅ではなく、本拠地破壊による勝利だ。


 戦略の選択肢として、あって当然の手段だろう。だがしかし、東源高校の選手たちは、思考の隙間を突かれた結果、選択肢からすっぽり抜け落ちてしまった。


 常識的に考えれば、試合の中盤に達する前で、本拠地破壊をやるなんて、あまりにも難しい。


 だが、花崎高校はチャレンジした。それだけ自分たちの連携行動に自信があったんだろう。


 東源高校にしてみれば、勝利と敗北の瀬戸際に立っていた。


 カウンターが成功すれば、そのまま勝利できるだろう。


 だが、カウンターに失敗すれば、流れるように敗北する。


 ならば、カウンターが成功する確率はどんなものかといえば、かなり低かった。


 もし、美桜と同じタイミングで、花崎高校の狙いが、本拠地破壊だと気づけていたなら、六割ぐらいの確率でカウンターが成功したはずだ。


 だが、東源高校のメンバーは、まったく気づいていなかった。


 美桜は、俊介の顔を観察した。


 切羽詰まった顔で、なにかを警戒している。


 どうやら、自分たちが危機的状況に陥りかけていることに、気づいているらしい。


 それだけでも、三年前より、圧倒的に進歩しているといえた。


 だが、なぜ危機的状況に陥っているのか言語化できないのが、彼の弱点であった。


(もし、私が、あいつの隣にいたら、すぐさま迎撃態勢を整えられるのに)


 同じユニフォームを着て、世界大会に挑むイメージが、何度もリフレインした。


 もし、その気になれば、樹に仲介を頼んで、仲直りできるんだろう。


 だが、美桜の気高いプライドが、許さなかった。とくに自分から仲直りを持ちかけるなんて、情けない動きをしたくなかったのだ。


 そうやってLM時代の恩讐を引きずっているとき、ついに運命の瞬間がやってきた。


 花崎高校の大部隊が、東源高校のお笑い生徒会長である未柳と、接敵したのだ。

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