第80話 吉奈の反省/花崎高校の戦略

 花崎高校は、三つ目の宝箱を入手できなかった。


 もし、三つ目の宝箱も入手して、1500ゴールドもの優位を確保できていたら、BO3における一本目は、花崎高校の圧倒的優勢だったろう。


 だが、東源高校が三つ目の宝箱を確保したことにより、500ゴールド差まで追いつかれてしまった。


 魔女のリーダーである吉奈は、お笑い生徒会長こと未柳の特技に驚いていた。


「まさか、あのお笑い生徒会長が、ステージの細かな地形を、完璧に覚えているなんてね」


 吉奈は、未柳のことを、軽く扱いすぎていた。


 たしかに小此木学園戦において、未柳のサムライは大事な役割を担っていた。


 だがあれは、他のプレイヤーたちが御膳立てしたから、うまくいったのであって、彼女自身の成果とは言いがたかった。


 だが、さきほどの宝箱を回収しつつ、無傷で逃げきるムーブは、百パーセント彼女自身の実力である。


(やっぱり人間っていうのは、努力すれば、ある程度の技術は身につくらしいわね)


 と、吉奈は心の中で、つぶやいた。


 だがそれは、他でもない吉奈自身が、わかっていることのはずだった。


 花崎高校の主要メンバーは、高校生になってから、本格的な競技ゲームに参戦した。


 そう、むしろ花崎高校のメンバーこそ、未柳の立場に近いのである。


 自分たちは、全国大会に進出するのに、ふさわしいチームだと思っているならば、同じ立場の未柳を侮ってはいけなかったのである。


 どうやら心配性の真希も、同じようなことを考えていたらしい。


「わたし、東源の生徒会長が、あこがれだから。あの活躍は、素直にリスペクトかな」


「あこがれ? あのダジャレばっかりいってる、ダメ生徒会長が?」


 試合中なのに、吉奈は思わず聞き返してしまった。

 

 それぐらい驚きだった。


 あんな生徒会のメンバーに事務仕事をまかせるばかりで、雑用すらまともにこなせないやつに、あこがれる要素なんてあるはずないだろうと。


 だが心配性の真希は、はにかみながら、未柳にあこがれた理由を語った。


「だって、自分の思うがままに生きてるじゃない。わたしには、それができなかったら」


 心配性の真希は、星占い部のメンバーのなかでも、とくにイジメの標的になりやすかった。


 女社会というのは、どうにも容姿の良し悪しが、地位に影響しやすいからだ。


 真希は、おたふく顔だ。お世辞にも、かわいいとはいえない。だが、かわいくないからといって、いじめるのは間違いだろう。


 そういう正論を体現した存在が、東源高校のお笑い生徒会長・未柳であった。


 未柳は、お笑い向けの容姿なのに、自由に思うがままに楽しそうに、生きていた。


 そう、心配性の真希にとって、未柳はあこがれの存在になっても、おかしくなかった。


 この一点だけで、吉奈は自分自身の判断能力を磨きなおすことを決めた。


 未柳のマークを疎かにしていたのは、自らの内面的な油断なのだ。


 むしろBO3の一本目で、自分自身の未熟な点に気づけてラッキーだったんだろう。


 今年の東源高校は、準決勝まで進出してきた強豪なのだから、所属メンバーの誰一人として侮ってはいけないのだ。


 気持ちを切り替えた吉奈は、チームメンバーたちに、有益な情報を伝えた。


「次の宝箱は、なにがなんでも回収するわよ。そうしたら、ちょっと積極的に仕掛けてみようかしら。東源高校の動きに、明確な弱点を発見したから」


 吉奈には、見えているものがあった。


 それは東源高校の連携プレイに、わかりやすい切れ目が存在していることだった。

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