第81話 連携の隙間
kirishunこと桐岡俊介は、妙なプレッシャーを感じていた。
もうそろそろ、四つ目の宝箱が出現するわけだが、花崎高校の動きから、なにかを調べる連携行動を嗅ぎ取ったのだ。
なにを調べているのか? またどんな情報から、こちらの動きを拾っているのか? 俊介は気になっていた。
(もしかして、なにか狙ってるのか……?)
と、心の中で、つぶやきながら、敵の指揮官である吉奈の采配を考える。
おそらく、四つ目の宝箱が出現したら、なにかアクションを起こすつもりだろう。
では、どんなアクションを起こすのか?
それを俊介は知りたいのだが、指揮官の才能がないため、なにも把握できなかった。
(なんで肝心なときに、俺の頭は追いつかないんだ……!)
最近は、三年前のラスベガスを思い出す頻度も少なくなっていた。だが、こんなときにかぎって、強烈なイメージとなってよみがえってきた。
どうやら自分のなかにある、競技プレイヤーとしての経験値が、花崎高校の動きを最大限に警戒しているらしい。
だから俊介は、チームメイトに注意をうながした。
「みなさん、四つ目の宝箱が出現したら、警戒しましょう。花崎は、なにかやってくるはずですよ」
不必要かとも思ったのだが、自分の経験値を信じているから、あえて声に出した。
すると指揮官である尾長が、興味深そうに返した。
「小生も、四つ目の宝箱はキーポイントだと思っている。だが、線引きもしてある。もし四つ目の宝箱が、敵陣に出現した場合、すっぱりと諦める。リスクが高すぎるからだ」
誰もが、賢明な判断だ、と支持するだろう。
なぜなら、花崎高校は、ゲーム序盤から中盤ぐらいで決着をつけるためのゴールド分配をしているからだ。
逆に東源高校は、中盤以降で決着をつけるようにゴールドを分配している。
だから、ゲーム中盤手前で、しかも宝箱の取得数は花崎高校のほうが多いとなれば、このタイミングで敵陣に攻め込むのは自殺行為だった。
だがそれでも、俊介は危険を感じていた。
「尾長部長のリスク判断、完全に読まれてませんか?」
尾長は、うなずいた。
「読まれているだろうな。だが、読まれていたとしても、リソースの差があるから、敵陣での戦いでは、どうあがいても勝てない」
「たしかに」
たしかに、と俊介は言った。言ったが、納得はしていなかった。
さきほどから花崎高校が見せている謎の動きが、無性に気になっていた。
なぜ気になるのかを言語化できないのは、俊介の頭が悪いからだ。
もし元チームメイトである美桜と樹がこの場にいれば、すらすらと説明できるだろう。
こんな大事なときに、元チームメイトたちに劣等感を感じていた。受験勉強を通して、がむしゃらに賢くなろうとした日々を思い出す。
尾長と出会えたことで、ようやく過去の呪縛から解放されたが、元チームメイトとの知力の差が埋まったわけではない。
実際、会場の舞台袖で試合を観察する美桜は、鋭いことをつぶやいていた。
「東源高校は、尾長部長の作戦と、俊介の個人技を活かすことで、これまで勝ってきた。だが、それがそのまま弱点になっている。相手の動きに対応して、陣形を変えるときに、一定の法則性があるのだ。これは一見すると、綺麗な連携プレイに見えるからこそ、本人たちが弱点だと認識していなければ、致命的だな」
この言葉は、もちろん試合会場にいる俊介には届いていない。
だがまるで美桜の言葉が、魂に直接届いたかのように、俊介はつぶやいた。
「俺がなんとかしなきゃ、チームが負ける気がする」
理屈はわからないが、いまのままでは負けると感じていた。
いまこの瞬間だけ、尾長の知力よりも、俊介の試合勘が上回っていた。
ひたすら努力してきた個人技の天才が、五感で感じ取る作戦面での危機。
運命の瞬間は、すぐそこまで迫っていた。
ついに四つ目の宝箱が出現したのだ。
場所は、花崎高校の陣地内だった。三つ目の宝箱と正反対の状況である。
東源高校としては『もし、花崎高校の陣地内に宝箱が出現したら、すっぱり諦める』方針だった。
だが、この方針を、そのままの形で実行してよかったのか?
答えが明らかになるのは、ほんの数秒後であった。
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